コーチング。その本質は”誘導”にあります。
コーチ(先輩や上司、セールスマン、講師、監督)は頭の中に理想のビジョンを描いていますが、それを頭ごなしに指示・指導・提案といった方法で押し付けても、相手の賛同や共感を得ることはできません。
そこで相手に自分が真に伝えたい事を理解してもらうための手段がコーチングであり、コーチングの受ける相手:顧客(クライアント)、生徒・後輩、部下は変わってもその本質は1つです。
それは、相手の思考や行動を誘導し、導くことです。
この記事では、コーチングの本質とコーチン具を発揮するために必要となるスキルについてわかりやすく解説しています。コーチングというスキルがなぜ重要なのか、具体的にどのような能力を身につけるべきなのかまで丁寧に解説していますので、是非最後までご覧になってみてください。
コーチングとは
コーチングと対極の考えとしてティーチングがあります。
ティーチングはコーチングとことなり、知識やノウハウの有無、上司や先生、監督と言ったように上限関係が存在します。
その場合、生徒や部下は、上司(先輩)・先生・監督の指示や指導に従う必要があります。相手の意識に関係なく動かす一方的な指導がティーチングになります。
コーチングとティーチングの違い
ビジネスだけでなく、スポーツや学業において、公式や手順、優先順位を覚えると言うのは基本に過ぎません。自分の能力を高めるためには、学んだことを実践したり、自分なりに考えたり、自発的な行動が必要不可欠です。
またセールスやマーケティングにおいても、広告などのプッシュマーケティングは顧客に響きません。売り込まれている気がするからです。しかし、顧客教育をし、顧客自ら「それが必要だ」・「自分自身でそれを買いたいという結論に至った」のであればどうでしょうか?
その判断・感情は強制されたものでなく、自分で考え付いたものです。成約率は劇的に変わります。それは人材育成にも当てはまり「上司や先輩、先生・監督に言われたからそうしている」と感じている人と成長スピード、学習の質は圧倒的に変わります。
「売り込む・強制する・教え込む」のではなく「相手がその考えに至るように誘導」する。
これがコーチングの本質です。
コーチングとティーチングの使い分け
もちろんティーチングが駄目だと言う気はありません。
知識や経験が全くない。自分ではどうしようもない状況に陥っている。あるいは自主的に考える力が不足している相手であればティーチングの方が効果的になります。
指示や指導をしてくれる存在が欲しいと思っているからです。
しかし、ある程度、考える力や知識がある人、主体性のある人に対して、売り込みや説教、指導をすれば反感を買うことになりますよね。
相手の能力や性格、知識レベルを加味して、ティーチングとコーチングを使い分ける事が大切です。
コーチングに必要とされる基本スキル一覧【8つのスキル】
では具体的にコーチングに必要となるスキルをみてみましょう。コーチングにおいて重要になるスキルは以下の通りです。
1つずつ詳しく解説していきます。
コーチングスキル①:傾聴力
傾聴とは「相手の声に耳に傾けること」です。
あなたが相手の話をヒアリングし、分析、課題特定、指導、指示をするためのものではありません。
能力がある人であるほど、分析や提案のためにヒアリングします。自分の知りたい情報が知れれば、すぐに提案・説得しようとします。
それで相手はあなたに心を開くでしょうか?
コーチとはコンサルタントやセールスマン・先生ではありません。
もちろん、そういった能力も最終的には必要になってきますが、「この人にはなんでも相談できる。」・「愚痴を言いやすい」といった相手が自分に対して安心感・信頼を持つ一番の味方がコーチです。
コーチングスキル①:傾聴力の実践例
傾聴力がなぜ重要かというと「相手がこの人には何でも話せる」と思ってもらえないと適切なコーチが出来ないからです。
建前や自分を良く見せようと相手が思っていたら、本音を知れないし、本当に困っていること、どのような状況に陥っているのかを正しく把握できません。
- 相手が話をすれば遮らず必ず最後まで聞く。
- 相手の声のトーンや表情など、仕草に敏感に反応する。
- 相槌や表情を相手に合わせ、気持ちよく話してもらう。
もし自分が相談したり、悩み事があった時、相手が上記の反応をしてくれたら気持ちはスッキリします。「またこの人に話したいな」・「この人は話をしたら真剣に付き合ってくれる」と思いますよね。
コーチングができる環境・関係性を作り上げることができなければ、あなたの想いや言葉は相手に届きません。
コーチングスキル②:質問力
職場で面談があったとしましょう。
- 悩みがあるなら相談してください。
- 疑問や不安はありませんか。
- わからないことがあれば気軽に聞いてね。
上記のように言われて、具体的に答える事が出来る人なら、話し合いや面談なんてしなくても自分から相談をもちかけてきたり、提案してきます。
しかし、ほとんどの人は内心を打ち明けません。
それを話して自分が悪い立場になったり、反対されたりしてしまうのが嫌だからです。「質問されれば答えるけど、自分から話そうとは思わない。」ということが現実ではほとんどです。
コーチングスキル②:質問力の実践例
質問とは会話を広げるためにあります。
- この人に○○の言葉を使えば△△にとられてしまうからもしれない。
- この人に○○の質問をすれば、ノってくると思う。
- 自分が相手を真剣に知りたいと思っている想いを質問に乗せる。
質問が、事務的であったり、上からであったりすれば、相手は警戒心を抱きます。
「何を目的に○○という質問をしたのだろう?」と質問の意図を相手は探るからです。
「正直に答えれば、同僚や部下・自分の立場が悪くなるかもしれない。」や「それを話したところで何の意味があるの?」と感じれば、相手は表面上・建前的な回答しかしてくれません。
質問力とは、言葉選び、質問の順番、質問目的(回答の取り扱い、利用方法)の説明などで、話を盛り上げられるか、引き出せるかにかなりの差が出てきます。
コーチングスキル③:反映力
会話とは双方向のコミュニケーションです。
「相手は自分の思いや意味を理解できていない」と思えば、「この人には話すだけ無駄」と感じてしまいます。
「この人と話していて楽しい。聞いて欲しい。」という感情は、自分と同じ興味や課題を持っている、自分が取り組んでいることへの理解がある、自分の悩みを真剣に知ろうとしている、など、相手の反応次第で変わります。
そのために必要なコーチングスキルが反映力です。
コーチングスキル③:反映力の実践例
- ○○さんは□□に対して、△△の意見なんだね。確かにそれは正しいと思う。
- ○○さんの□□に対して納得できないという気持ちは当然ですよね。
- ○○さんがどれだけ怒っているかは、△△からとても感じました(笑)。
- ○○は□□に対して、△△はおかしいのではないの?ということをいいたいんですよね?
上記のような反応を相手がしてくれれば「この人は味方だ」・「自分の意見を理解しようと会話している」・「自分の意見は相手にきちんと伝わっている」と強く感じます。
するともっと自分の思いを知って欲しい、伝えたいと言う感情が強くなります。
コーチングスキル④:承認力
会話の基本的な流れは以下の手順になります。
- 相手に質問をする。
- 相槌や返答をしながら相手の話を広げる。
- 相手に好意的な反応を示し、関係性を育んでいく。
ヒトは会話をしていて「この人は味方だ」・「敵だ」となんとなく感じます。
味方と感じているヒトから「それは理解できるけど駄目だよ」と言われれば「相手は自分の心配をしている・自分のためを思って発言している」と感じますが、関係性が良くない・悪印象を持っている人から同じ事を言われれば「この人は自分の事を良く思っていない」・「揚げ足や批判をするはずだ」と警戒心・敵対心を持ちます。
コーチングスキル④:承認力の実践例
会話には2種類の目的があります。
- 課題発見・改善案などの建設的・生産的な成果を良くするための会話
- 相手との関係性構築。相手に好感情を抱かせるための会話
必要最低限の会話をしていれば問題ないと考えるかもしれませんが、それでは相手は自分に好感情は持ちませんし、足を引っ張られたり、自分の行動や意図を理解してもらえなかったり、頼んだことを後回しにされる、など様々な弊害がでます。
相手が自分の期待する通りの考えでない、技量がない、知識がなくて、それを改善しようとする前に以下の会話を大切にする事が重要です。
- ○○さんのこういう部分は、人間的に尊敬できるし、素敵だなと思います。
- ○○さん、△△をやられていますよね?その姿をいつも見てますし、感謝してます。
- ○○で成果は出ませんでしたが、その工夫ややり方はなるほどと思いました。
- ○○さんは自分のことを△△だからと仰られますが、私は□□だと思いますよ。
上記のような会話を繰り返していくことで相手の信頼・好意的な感情を抱く事が出来ます。
コーチングスキル⑤:中断
相手が「この人は自分の味方だ。」、「この人はいつも自分の事を思って話してくれている」という感情を持ってもらえてはじめて、真の意味のコーチングをスタートさせる事が出来ます。
相手を良い方向・良い未来・潜在力を発揮させるには、知識やノウハウがある人が目的を持って誘導・導いてあげる事が大切になります。
そしてそのためには、相手が感情的になってしまったり、間違った解釈・受け取り方をしてしまったり、努力を間違えてしまいそうな場合、相手の思考を中断させなければいけません。
コーチングスキル⑤:中断の実践例
しかし、中断と言っても相手を頭ごなしに否定したり、諭してはいけません。自分の話を耳に傾けてもらえるようにまずは相手を落ち着けると言うのがクレーム対応でも基本になります。
感情的になっている相手には以下の中断のやり方が効果的です。
- ○○さんの気持ちは凄く伝わってきますし、熱くなるのは仕方ないと思います。
- ただその想いを直接ぶつけてしまったら○○になって、□□さんが損しますよ。
- なので、○○に対して△△のことも考えてみませんか?
- そうすれば□□のようになって、○○さんが悪者にならずに済むので。
重要なのは、気持ちを落ち着かせることです。
相手の意見や感情を周囲に撒き散らしたり、ぶつけてしまえば、相手が悪い立場になったり、損が発生すること「自分はあなたの味方だからそれは避けたい」
そう伝えることで、相手の気持ちを上手く落ち着かせる事が出来ます。
コーチングスキル⑥:提案力
提案と言ってもティーチングと異なり、コーチングでは「相手自身がその答え・考え方に至るように誘導する」事が肝になります。
そのためには「どのような経験や知識が不足しているのか」、「相手が間違った考え方をしてしまうのはなぜなのか」など、相手を深く理解し、間違った考えをしてしまう原因を1つずつ取り除き、自然と自分がしてもらいたい考え方、たどり着いて欲しい結論へと誘導する事が重要になります。
それが出来れば相手は喜んであなたの言うことに賛同し、協力したり、サービスの購入にいたります。
コーチングスキル⑥:提案の実践力
- 今、○○に対して、△△だと考えておられますよね。
- それは、○○で△△が大事と考えておられているからですよね。
- しかし、□□がなければ、それは出来ないと思いませんか。
- また今起きている問題は、○○の視点で見れば、△△と説明できます。
- ○○さんの想いを実現する上でも□□をすることが一番の近道だと思います。
上記のように、1つずつ知識や気づきを提供し、因果関係を考えさせ、未来ビジョンを連想させる。
適切なコーチを受ければ誰もが同じ考えにたどり着きます。
意見が対立したり、受け入れられないのは、相手も自分なりの理屈や知識・経験があり「自分の意見は正しい」と思っているからです。
それを押さえつけるのでなく、その人に不足している視点や知識を提供したり、物事を順番に関連付けて考えられるように誘導していく。
それこそがコーチングにおける提案です。
コーチングスキル⑦:ルール化・仕組み化
相手と価値観・目標を共有事が出来れば、アウトプットに移ります。あなたはセミナーや研修を受けたり、本やWEB記事を読んだり、動画を見たり、以下のような疑問を持った事がありませんか?
- 理屈は理解できたけど、実際にどのような行動をすればいいの?
- 自分の職場・役割であれば○○すればいいという理解であっているよね?
- 実際に○○をしようと思うけど、具体的な手順や気をつけるポイントは?
どれほど本を読もうが、研修を受けようが、分析しようが、結局のところ、自分の置かれている状況で自分の行動改善に役立てることができなければ単なる知識で終わってしまいます。
自分のしている職種、置かれているポジション、自分が抱えている課題、身につけたい能力、達成したい目標に合わせて具体化する事が大切です。
コーチングスキル⑦:ルール化・仕組み化の実践例
ルール化の基本は5W1Hで考えることです。
- What・・・具体的にどのようなドリル(発言・行動・思考)トレーニングをするのか。
- When・・・そのドリルはいつ実践するのか、その頻度は、取り組み時間は?
- Who・・・それは誰がするのか、誰に対してするのか
- Where・・・それはどこでするのか、どうやってその環境を作り上げるのか
- Why・・・どのような未来を目指すのか。次回の授業までに達成する目標は?
- How・・・ドリルで意識するポイントは?工夫・こだわりポイントや手順など。
上記の事をきちんと理解しているコーチであれば、ただためになる話をするだけでなく、きちんと行動に落とし込めるような授業・サポートをしてくれます。
それが先輩や上司であれば、指導力のある人になるし、コンサルタントや営業マンならソリューション影響が出来るようになります。
コーチングスキル⑧:目標(課題・宿題)
コーチングは1度しただけで成果は出ません。
授業をして相手の意識を変え、宿題を与え実践させ、次回の授業でその成果を振り返り、次なるステップに進んでいくという長期的な視点を持って取り組む事が大切です。
一度相手と話しただけでは理解はしてもらえても思考の変化にはいたらないからです。
相手の思考を変えるには、行動を継続させる事が大切です。
そのために大事になるのが目標を与える、宿題を与えることです。
コーチングスキル⑧:目標の実践例
コーチングの対象が、生徒や部下、後輩であれば、次回の面談・授業までに「○○の成果を目指そう」、「○○ができたかを確認するから」など、具体的な宿題は与えられます。
しかし、対象が上司や同僚やクライアントと言った自分と立場が同等、自分より上で自分の提案を通したい、共感してもらいたい場合には「今回はここまで決まりました。」、「次回の目標は○○を落とし込む、詰めていくことになります。」、「そのためには、○○の情報が必要なので△△を整理してきます。」や「○○について考えておいてください」といったように、次回の話し合いまでにどのような準備や意識を持ってもらいたいのかを明確にしておく事が大切です。
コーチングスキルを向上させるには
「名プレーヤーが名コーチ・名監督とは限らない」という言葉があるように、ただ知識がある、技能がある、経験があれば適切なコーチングができるとは限りません。
自分がいくらプレーヤーとして優秀でも、相手のプレーを良くする(稼がせる)力は全くの別物です。相手の思考を変えていくためには、以下のスキルが必要になります。
- 相手の今の考え・思考を見抜く・解釈するための観察力
- 相手の感情を敏感に察知し、反発されないように話を進める会話術
- 自分の提案を理解させるために必要な知識・考え方の付与
- ステップ形式でコーチングをすすめていくためのシラバス・スケジュール作成
真のコーチング力を習得するためには
簡単に言えば、【相手の感情を察知する心理学】、【コミュニケーション術】・【原因と結果を概念的に整理できるロジカルシンキング】・【成長ステップを分解するキャリアプラン】の4つを学ばなければいけないわけです。
上記の4つの力がなければ、話をただ聞いただけ、指導しただけで終わります。
相手の思考をコントロールするスキルを身につけないことには、相手を正しく導くことはできません。
コーチングスキルチェック
では上記の4つのスキルをチェックしてみましょう。あなたはいくつ当てはまりますか?
相手の感情・思考を読み取るための観察力
- 相手の表情や声のトーンの変化から相手の感情を推測する事ができる。
- 相手がどのようなことに喜んだり、怒っているのかが大体イメージできる。
- 相手の気持ちを把握するために、どのようなことを質問すればいいかわかる。
- 相手が大切にしている意見や考え方を引き出すためにどんな質問をすればいいかわかる。
相手の好感を得るためのコミュニケーション術
- 相手が好む話し方や接し方、盛り上がる話題が何かがわかる。
- 相手に敵対心や警戒心を抱かせることなく、批判的なことも上手に伝えられる。
- 自分が発する発言は全て相手を思ってのことだという印象を与えられる。
- 自分が嫌い・苦手な性格の人でも自分の感情を押さえ、歩み寄ろうとできる。
原因と結果の因果関係を整理するロジカル力
- 相手の思考や行動の背景にある心理や根拠が何であるかわかる。
- 相手の思考の根拠を変えるために必要なキー概念が何であるか1言で説明できる。
- 相手のこれまでの努力や考えを否定せず、自分の意見を伝えるストーリーが作れる。
- 自分の言うとおりにすれば、相手にどのようないい未来がもたらされるか説明できる。
ステップ形式で進めるためのシラバス力
- 今回のコミュニケーションで到達するゴールを毎回決めている。
- 相手の思考を変えるために最低何回の接触が必要かだいたいわかる。
- 話し合った感触で、次回のコーチングの内容・目標を柔軟に変えられる。
- 相手の能力や知識レベルに合わせて、最適なスケジュールを決められる。
まとめ
今回の内容は、優秀なコンサルタントや一流のセミナー・塾講師の特徴になります。
指導が上手い、周囲を巻き込む、ついて行きたいと思える、尊敬される人というのは、自分の考えを押し付けることはありません。
そんなことをしても人の心は変えられないとわかっているからです。
だから、自分の発する言葉、姿勢・態度・髪型や服装といった自分のブランディングも大切にします。相手に、「この人の話を聞きたい」、「聞いてもらいたい」と思ってもらったり、「この人は自分の味方だ・理解者だ」という好感情が重要だと思っているからです。
小手先のテクニックではなく、まず相手を一番に考え、相手の未来を応援し、そのサポートをしたいと思っている。
その気持ちが何よりも重要です。