褒めるという行動はビジネススキルの1つです。
人は褒められることによって以下の心理が働きます。
- 「自分はこういった事が得意なんだ」という”成功体験”
- 「この人はこういった行動をすると喜ぶ」という”業務理解”
- 「褒められた行動をもっとしよう」という”行動の反復”
褒め上手になることで、部下だけでなく、上司や先輩、顧客や取引先の人間を味方につけることができるようになります。
この記事では”褒める技術”について解説しています。
最後までご覧になっていただければ、ビジネスで人を動かすことの本質をご理解していただけると思います。
1.仕事で褒め上手であることが求められる3つの理由
褒めるという言葉は「甘やかす」・「ごますり」・「八方美人」という悪い意味で捉えられることもあります。
しかし、褒めるという行為は「仕事のマネジメント」において、非常に重要なビジネススキルの1つです。
仕事を円滑に進める上でも、成果を出す上でも褒め上手になるべき3つの理由をまずご紹介します。
褒め上手になることでどんな意見も言いやすくなる
あなたは上司から厳しい事を言われました。
そこで反発するか、受け入れるか、それは上司との関係性で決まります。
- この上司の言うことに従おうと思う。素直に自分の非を認めよう。
- この上司の言うことには納得できない。自分はこうした方が良いと思う。
ビジネスでは、どんな意見も正解であり、不正解でもあります。なぜなら、理屈では正しくても、必ず成果が出る意見なんて存在せず、やってみなければわかりません。失敗すると思っていたやり方が上手くいき、計算されつくされた秀逸なアイデアが大コケすることなんて珍しいことではありません。
だからこそ大人を叱ることは難しく、「わかりました」といっていても心の中では、不満を抱えている人ばかりです。
だからこそ、まず相手を普段から褒め、「自分はあなたの味方だ。」という関係性を作っておく事が重要です。
すると相手の反応は以下のように変わります。
- この人は普段自分の事を褒めてくれるし、今回叱ったのは自分のためを思ってのことだ。
- この人は自分の成長を心から臨んでいる。だから従おうと思う。
相手に自分の言うことに従って欲しいなら、まずあなたが相手の味方にならなければいけません。味方であると思うからどんな意見も受け入れられるし、逆にどんなに根拠があり、客観的な私的だとしても敵からいわれたら、揚げ足をとるために攻撃できる部分を探し、反論しようとします。
褒めるという行為は自分のためでもあるのです。
人材教育が上手い人は褒め上手である理由
褒めるという行為は、教育において重要な要素を占めています。
子供は親に褒められるために努力します。
褒められたことは「もっとやろう。今度もやろう」となり、褒められないことは「もうやらない」となります。
つまり、彼氏(彼女)や子供、部下・後輩にやってほしくないことはどんな成果が出たとしても褒めず、逆にこれからも継続して欲しいことは結果が出なくても褒める、というようにすることで相手の今後の行動をコントロールする事ができます。
何でもかんでも褒めるのではなく、目的を持って褒める事が仕事では求められます。
褒められることによって人は長所を伸ばしていける
褒められるということは強烈な成功体験です。
人は誰かから褒められるという経験を通じて、自分の長所や適性というのを理解していきます。
- 自分はこういった事が得意なんだな。
- こういったことを自分はすればいいんだな。
上記のように職場での自分のキャラクターや役割、これから重視すればいいことなどを理解していきます。
褒めるという行動は、ただ相手をいい気分にさせるだけではなく、相手との関係性を深め、連携・協力していく上で欠かせないスキルです。
2.仕事ぶりを褒める上で5つの効果的な言葉
仕事において褒め方のポイントには以下の5つがあります。
- 今回努力して得られたこと・変化したことについて褒める。
- 今回行動してわかったこと・見えてきた課題について褒める。
- 損得抜きで自分の素直な言葉を使って褒める。
- 相手がしてくれたことによる結果について褒める。
- これからもお願いするねと未来について褒める。
それぞれ詳しく説明します。
部下のやる気を引き出す褒め方
仕事では、どれだけ努力しても成果が伴うとは限りません。
そういった時、部下や後輩を適切に褒めることで、自信をなくしたり、不安になる事を防ぐことが出来ます。それは「行動の変化」を褒めることです。
部下の褒め方
具体的には以下のようなプロセスに注目して褒める言葉が効果的です。
- 今回こういったやり方に変えていたね。そのやり方はよいと思うよ。
- 今回こういった結果だけど、前回と違って、こういった変化が得られたよね!
- 結果は変わらないけど、質がよくなっていると思うし、結果が出る日は近いと思う!
受験勉強でも毎日勉強すれば、次のテストの点数が上がるわけではありません。でも必ず惜しい回答は増えているはずです。そういった行動の変化、向き合い方の変化をしっかりと拾ってあげるだけで「自分は変化をしている途中なんだ」、「先輩や上司は自分が変わってきていると思ってくれているんだ」と他人から褒められることで「自分の努力は無駄じゃない」という事を発見する事がで来ます。
部下や後輩に対して、行動の変化に気づき、褒めてあげる事が大切です。
部下が褒められて嬉しい言葉の例
部下が褒められて嬉しい言葉には以下のものがあります。
- 自分でも忘れてたことをよく覚えていたね。人の話しよく聞いているなぁ。
- 指示をすればすぐにやってくれるね。安心して任せられるよ。
- よく周りをみているね。気が利くし、職場の皆も助かっているよ!
- 試行錯誤しながら仕事をしていることがよくわかるよ。失敗してもいいからね!
- 勉強熱心だなぁ。負けていられないな!
部下というのは自分よりも立場が弱り存在であり、より上位の存在から「自分は職場に貢献できている」・「先輩や上司に期待している存在である」と認められる”承認欲求”を刺激する言葉が効果的です。
能力の高い人・向上心のある人の褒め方
褒める技術は、ただ相手を認め、気分をよくするだけではありません。
知識欲や向上心のある人に対しては「もっと成長したい」・「もっと学びたい」ということを褒めることがポイントになります。
- 前回はこういう反応で、今回はこうだったね。その違いを考えてみても面白いかも。
- 今回これが出来て、新しい課題が見えてきたよね。
褒めるということは相手が求める事を提供すること
褒めるという言葉は「相手が言われて嬉しいもの」でなければいけません。
- 今、自分がこだわって取り組んでいること。
- 今までのやり方から変えたこと。
- 新しく取り組んだこと。
向上心がある人は、現状に満足せず、何か目的を持って仕事に取り組んでいます。言葉遣いや話し方1つであったり、本を読んだことを実践したり、結果よりも、自分の成長を行動の源泉となっています。能力のある人は、自分自身に能力があることを自覚しているからです。
だから、結果よりもプロセスを重要視します。
- ○○くん、今回はこうしたけど、こうするのも面白いかもしれないね。
- ○○くんは、今回こういう意識で動いていたと思うけど、次は▼▼の意識を持ってみたらどう?
上記のように、「自分はこう感じた」・「こういう考えもあり方と思った」という素直な意見を求めています。
仕事で褒める言葉の種類と対象一覧
「他人からどう思われているかという承認欲求が強い人」と「自分の目標を重視する自己実現欲求が強い人」とで、褒め方を使い分ける事が大切です。
過程(自己実現重視) | 結果(承認欲求重視) | |
目標 | ○○の目標を意識してくれているね。 | ○○の目標を達成できたね! |
学習 | ○○を学ぼうと頑張ってくれているね。 | ○○ができるようになったね! |
課題 | ○○が課題であることがわかったよね! | 頑張ってくれているから心配しないで大丈夫! |
未来 | 目的を持って努力していることがわかるよ! | 君なら○○ができるようになるよ! |
過程では「自分の考えを理解してくれている」と相手が感じるのに対し、結果では「自分の努力を見ていてくれている」と相手は感じます。
このように言葉を少し変えるだけで、相手が受け取る印象は大きく変わります。
褒められて嬉しい褒め方
「褒める」というと相手が何かやってくれた時に褒めるものだと思われがちではそうではありません。
相手が何をやっていなくても褒める。そうすることで相手は嬉しくなるし、頑張ろうと思える。
「褒め方」を学ぶことで良好な人間関係を築きやすくなります。
仕事の褒め方:男性編
男性・女性というのはあくまで一般的な傾向の話で絶対的な話ではありません。女性でも男性的な思考が強い人もいるし、逆も当然あります。性別にこだわるのではなく、相手の性格に合わせて使い分ける意識が大切です。
男性は基本的に「頼りにされる」・「評価される」という事を非常に魅力的に感じます。それは古来から群れの中のリーダーになる、より強いポジションに着く、などの社会的地位を争ってきたからです。
男性には、自己肯定(効力)感を高める言葉が非常に有効で、有名なものが「さしすせそ」です。
褒め言葉例 | 概念 | 効果 |
---|---|---|
さすが | 評価 | あなたが凄い人だと私は思います |
しらなかったです | 興味 | もっと詳しく話を聞きたい |
すごいです | 感嘆 | 誰にもできることじゃない |
せんすがある | 能力 | 能力が高い人だと思ってます |
そうなんですね | 同意 | その通りだと思いますよ |
人というのは話をしたがる生き物です。
もっとあなたの話を聞きたい、私はあなたに興味を持っているから、話の続きをしてよ。
上記のように「自分を肯定して欲しい」という気持ちが男性的な思考が強い人には効果的です。
仕事の褒め方:女性編
女性は古来から「子供を守る」という役割を担ってきました。そこで大事なのは、関係性を維持するということであり、「自分が成果を出す」というよりも、周りから嫌われない・好かれたいという心理が非常に強いです。
- ○○さんがいてくれるから仕事がやりやすいよ。
- みんなの感情をいつもフォローしてくれてありがとう。
- 僕では気付けないことにいつも気付いてくれて助かっているよ。
- コミュニケーションしやすく、職場の居心地がよくなったよ。
女性に対しては、職場やチームに対する貢献度を評価すると喜ばれることも多いです。
服装や容姿について褒めることも効果的ですが、セクハラになるリスクもあるので相手との関係性次第です。
無難なものとしては、デスクにある小物とか新しく購入したものなど、男女関係とあまり関係のない内容から褒める事が良いと思います。
仕事で使える2種類の褒め言葉
「褒める」というとどうしても先輩から後輩、上司から部下という関係性になりやすいですが、上司を褒める言葉ももちろん存在します。
上司の褒め方
部下から上司へ、後輩から先輩の場合であれば、以下に自分が助けられたか、どれほど普段から頼りにしているかという事を褒めると効果的です。
- ○○さんが言ってくれたおかげで、■■さんに△△をしてもらえました。
- ○○の件なのですけど、先輩が言ったとおりでした!さすがですね。
- ○○さんのサポートで上手くいきました。これからもお願いします。
自分は今回こういう結果を手に出来た。でもそれは相手のおかげであり、自分1人じゃ出来なかった。
自分の方が立場が低いからこそ「自分の成功は相手のおかげである」というようにもっていきやすいです。
目上を立てることで「なら次回も助けてやるか」とか「こいつは可愛いな」と思ってもらうことで、自分の仕事がやりやすくなるので、是非意識してやってみましょう。
部下の褒め方
部下に対しては、ただ褒めるだけでなく、褒める内容を意識することで部下や後輩の行動をコントロールすることが出来るようになります。
- お願いしたことはすぐにやってくれるから、君には安心して頼みごとが出来る。
- 君はわからないことはほったらかしにしないから、安心して仕事が振りやすい。
- 君は指示内容を理解しようとしてくれるから、君にはもっと教えたくなるよ。
仕事というのは積み重ねで、「今回上手くいかなくても、次はもっと頑張ろう」という反復が仕事の質を高めていきます。
自分の指示に従ってくれたこと、指示を理解しようとしてくれること、一生懸命であること。
部下の褒め方を学び、「次こそは!」という気持ちをいかに持たせられるかが重要です。
未来に対する褒め方を身につけて相手の行動をコントロールしよう
褒めるということは教育において最も重要な要素といっても過言ではありません。
褒められるという経験は「この人はこれを褒めるのか、じゃあこれをするとこの人は喜ぶんだな」という成功体験に他ならないからです。褒められる行動はこれからも継続し、褒められない行動は今後やらないと褒められる行動を通じて、上司・先輩の目的・理念・価値観を学びます。
家族や会社、チーム、職場で文化が形成されたり、似たような価値観になるのはそういった社会的な学びが作用しています。
そこで意識してもらいたいのは「完了」と「継続」の使い分けです。
完了としての褒め言葉
相手の行動を褒める言葉には2種類のものがあり、「十分だよ」・「合格点だよ」という言葉は完了に該当します。
- 目指していた目標を達成できたね!
- 要望どおりに動いてくれてありがとう。
上記の言葉は「これ以上注文することはない」という意味であり、次のステージを目指そう、別の課題を探そうという場合に使います。
継続としての褒め言葉
逆にこれからもその行動を続けて欲しい、努力を続けて欲しいという場合には、継続の褒め言葉を使います。
- このままその調子で頑張っていってくれ。
- だんだんよくなっているよ。いい感じだ。
上記の言葉を聞けば誰もが「もっと頑張ろう」という気持ちになり、その行動をこれからも続けていこうとなります。
このように褒め方1つで「次の課題や目標にチェンジするのか」・「今の行動を更にブラッシュアップさせるのか」は大きく変わります。
3.褒め上手な人になるには
ここまでで「褒める」といっても様々な種類があることをご理解していただけたと思います。
ただ相手のモチベーションを高めるもの。自分に自信をつけさせるもの。相手に気付きを与えるもの。
目的によって最適な褒め方は変わります。
自分が相手にこう思ってもらいたい。相手とこのような関係性を作りたい。相手にこう動いて欲しい。
目的に応じて褒める言葉を使い分ける事が褒める技術であるといえます。
褒められて嬉しい言葉まとめ
この記事でご紹介した褒め言葉をまとめると以下になります。
- 相手に○○の感情を持ってもらうために褒める。
- 相手に○○に気付いて欲しいから褒める。
- 相手に○○という考えをさせるために褒める。
- 相手に○○という行動をさせるために褒める。
- 相手が○○を継続するように褒める。
褒め上手になる方法
意味もなく褒めても相手は喜びません。
いきなりどうした?何か下心があるのか?ごますりか?
上記のように、褒めるタイミング、褒める内容、適切な言葉の選択が出来なければ、逆効果になることもあります。
褒め上手になるには以下のステップで褒め方を磨いていく事が大切です。
- 相手の行動を観察する
- その行動の延長にある褒め言葉を探す
- もっていきたい感情に合わせた褒め言葉を選ぶ
- 褒め言葉を投げかけるタイミングを逃さず日々継続する
普段から褒めるということを意識して続けていくことが何よりも重要です。