人材マネジメント

中小企業で優秀な社員から辞める3つの理由と人手不足倒産を防ぐ方法5つ

中小企業だけでなく、大手企業を含めてあらゆる業種や職種でいま深刻な問題となっているのが「優秀な社員の離職」です。

「社員が辞めたのか。採用広告を打って新しい人を補充するか」

一昔前は上記のような思考をしている経営層が大半でした。しかし、ネットの普及により転職が当たり前になった近年において、中小企業の人手不足倒産が増えてきています。

そして優秀な社員が離職するというのは、金銭的なコスト負担だけでなく、以下の自社の様々な課題へと波及していきます。

【離職に伴う損失コスト一覧】

  • 金銭・財務的な損失
    • 採用コスト: 離職した社員の採用にかかった求人広告費や紹介手数料の消失
    • 教育・育成コスト: 研修費、資格取得費、上司や先輩が指導に費やした時間と人件費の無駄
    • 引き継ぎコスト: 退職手続きや業務引き継ぎ期間中に発生する無生産な人件費
  • 業務・成果における損失
    • 売上・利益の直接的な減少: 退職者が抱えていた既存顧客・案件の失注や流出
    • 業務クオリティとスピードの低下: 熟練者の離脱によるミス増加、作業効率のダウン、納期遅れ
    • ノウハウ・知見の社外流出: 蓄積された業務ノウハウ、顧客データ、業界ネットワークの喪失
    • 競合他社への優位性低下: 優秀な人材がライバル企業へ転職することによる市場での敗北
  • 組織・現場における損失
    • 残された社員への負担増: 後任が決まるまでの業務押し付けによる過重労働と疲弊
    • 連鎖退職の誘発: 現場の士気低下と不満の蔓延による「次の離職者」のドミノ倒し
    • 社内エンゲージメントの低下: 「優秀なあの人が辞めるなら…」という会社への諦めと絶望感の拡大
    • 企業ブランディングの低下: 口コミサイト等での評判悪化による、今後の採用難(ブラック企業の烙印)

社員が定着しない、あるいは離職が増え始めた会社というのは、業績が低下していくのは上記のためです。

更に中小企業では、現場の業務負担や重要なお客様の管理、具体的なノウハウが特定の優秀な社員に集中する属人化が避けられません。どれだけ書面マニュアルなどによる引継ぎをしても、新しく入社した中途人材が同じような仕事ぶりをするなんて不可能です。

つまり中小企業において離職とは「発生するたびに会社の生産性と顧客提供価値が削られていく深刻な経営課題」なのです。

最終的には「辞めてほしくないコア人材から抜けていき、ぶら下がり社員と新人社員だらけになる」という状態になり、事業継続そのものが困難になるでしょう。

これが昨今増え続けている人手不足倒産のからくりです。

本記事では以下のことについてお伝えしています。

本記事を読めばわかること

  • 中小企業で優秀な社員から辞めていく3つの理由
  • 中小企業が取り組むべきマネジメント改革
  • 優秀な人材を逃さないための防衛策

是非、最後までご覧ください。

1. 中小企業で優秀な社員から辞めて行く3つの理由

退職は以下の5つのタイプに大きく分ける事ができます。

退職の5つのタイプ

  • 会社都合・圧力による退職(リストラ・退職勧奨)
    業績悪化に伴うリストラや希望退職の募集
    パフォーマンス不全やミスマッチに対する会社側からの辞めさせる圧力
  • 早期離職・組織不適応による退職(新卒・中途のミスマッチ)
    社風や職場環境、人間関係に馴染めないことによる早期離職
    新卒社員の入社前のイメージと現実のギャップによる早期離職
  • キャリアアップ・待遇不満による退職(優秀層に最も多い離職)
    年収や役職アップを目指したキャリアアップ転職
    「評価が不透明」「頑張っても還元されない」「業務が自分に偏る」など不満離職

    現在の職種が不安で、将来の可能性を求めての異職種・異業界への転職
    自身のビジネス立ち上げやフリーランス化に向けた独立・起業退職
  • 健康・メンタル面の不調による退職(傷病・過労)
    長時間労働や過度なストレスに起因するメンタルヘルスの不調(適応障害・うつ病など)
    身体的な疾患やケガにより、業務継続が困難になったことによる離職
  • ライフイベント・家庭事情による退職(やむを得ない事情)
    結婚や出産、配偶者の転勤に伴う転居や生活環境の変化
    親や家族の介護・看護に専念するための離職(介護離職)

中小企業で起きている離職問題で取り扱うべき内容は2・3・4です。

上記の要素を簡単にまとめると「職場に上手くなじめず、会社に行くのが嫌になった。」「自分の能力に見合った給与や役職ではないという不満」「このまま会社にいても良い未来をイメージできないという不安」「自分が処理できないほどの業務負担をかけられていることによる心身の不調」の3つが会社が防ぐべき経営課題であるといえます。

この記事では優秀な社員の離職に多い「会社に対する不満」、「将来に対する不安」という問題を防ぐ方法について解説していきます。

中小企業で優秀な人材から辞める理由:今の会社に固執する必要がないから

今の時代、携帯を触っていると必ず「退職代行や転職サービスの広告」が目に付きます。

それは別に自分が退職や転職を考えていなかったとしてもです。

優秀で周りから評価されており、上司もいい人で、部下や後輩とも上手くいっていて仕事自体は楽しい。「給料にはあまり固執せず楽しく過ごせればいい」と思っていたとしても、どこかのタイミングで転職アプリ広告を一度はクリックします。

そこのサイトでいろいろ見て「自分が転職市場で価値があるかもしれない。」という考えが脳裏によぎった瞬間、「今の会社で楽に過ごしていくこと」と「より良い未来のために転職すること」を無意識に比べるようになります。

これが一昔前では一般的ではなかった転職が当たり前になっていったロジックです。

中小企業で優秀な人から辞めて行くのは単純にオファーが多いから

日本の転職市場(中途採用市場)の規模は、約2兆円〜3兆円規模と推計されています。

人材ビジネス市場全体(人材派遣・人材紹介・求人広告などの合計)で見ると、矢野経済研究所などの調査において約10兆円規模の一大産業となっていて、軽い気持ちで転職サイトに登録すれば、代理店からのスカウトが多数届き、高条件オファーが常に届く状況になります。

中小企業で優秀な社員から辞めて行く理由は単純明快です。他の人よりもお誘いが多いからです。恋愛と同じでモテル人は1人に固執しません。分かれてもすぐに次の人が見つかるからです。

下記の数値は生成AIに算出させた転職サイトに登録した際のオファーの平均的な目安です。

届くオファー数の平均目安

総合型転職サイト(リクナビNEXT、マイナビ転職、dodaなど)

  • 一括配信オファー(一括スカウト/オファー): 月20〜50通以上
  • 面接確約・個別オファー(ターゲットスカウト): 月3〜10通前後

ダイレクトスカウト型サイト(ビズリーチ、AMBI、Green、リクルートダイレクトスカウトなど)

  • ヘッドハンター(エージェント)からの打診: 月10〜30通
  • 企業からの直接オファー(プラチナスカウト等): 月1〜5通

つまり転職や退職を考えていなかったとしても、今やアプリで簡単に休憩時間等に、転職活動や企業探しをできる時代になっているということです。

後は転職を考えてみるきっかけがいつ起こるかの違いだけです。

「知人との飲み会の際に転職で給与が上がったよ」という話を聞くかもしれませんし、「上司や部下、先輩と気まずくなる出来事」が起きるかもしれません。子供が出来て経済的に安定したいと思うようになることかもしれません。

ただ優秀な社員には常にどこかの会社からお誘いがきているということだけは確実です。

中小企業で優秀な社員から辞める理由:この会社は変わらないと思ったから

中小企業で優秀な社員が「この会社(職場)はもうだめだ。辞めよう」と決意するのは今日、昨日の話ではありません。

  • 上司と上手く付き合おうとしたが変わらない、頑張っても評価を下げられる。上は話を聞いてくれない。
  • 職場の雰囲気を変えようと努力したが変わらない。1人だけで頑張っても反感を買うだけだ。
  • 圧倒的な成果をだし、社内・職場改革の案を出しても会社は保守主義で変えようとする意思がない。

恋愛と同じで別れ話を切り出したとき、それは数ヶ月悩みぬいた先の決定事項の通達であり、そこから慌てて対応してもそれを引き止めることは出来ません。

「中小企業で優秀な社員からやめていく」のは「いくら現場の意見を伝えても、改善案を提案しても、この会社は変わらない。」という”会社を見限った人が増えた。”ということであり、優秀な人材であればあるほど同じ結論に至ります。

当記事とあわせて読んで欲しい

優秀な社員の退職を防げるかどうかは、「退職や転職を考え始めた兆候」をどれほど早く察知して対応できるかの初動の早さです。以下の記事では28の退職兆候とその見抜き方についてご紹介しています。

>>【優秀な人が突然辞める予兆28選】退職予備軍を見抜く方法5ステップ

中小企業で有能な社員から辞める理由:自分だけに作業が集中するから

中小企業では優秀な人材<仕事が出来る社員>に仕事が集中することが多いです。

それは以下の理由からです。

優秀な社員に仕事が集中する理由

  • 【現場・育成システムの要因】
    自分でやった方が早いという考えを持つ社員が多く、教育する文化がない
    辞めた社員の業務がそのままスライドして引き継がれ、業務が「上増し」される
    属人化しすぎていて、その人にしか分からない「ブラックボックス業務」が存在する
  • 【経営陣・管理職の心理・マネジメント要因】
    「あいつに頼めば安心・絶対断らない」という上司の心理的甘え
    トラブルやクレーム対応など「絶対に失敗できない案件」を打診せざるを得ない
    管理職自身が現場の業務量を正確に把握(可視化)できていない
    他の社員の能力不足を、優秀な社員の善意でカバーさせている
  • 【組織構造・制度の要因】
    「仕事ができる人」ほど社内外の相談窓口になり、雑務やフォロー作業が雪だるま式に増える
    仕事ができない社員を降格しにくい労働法制と人事制度の歪み
  • 【本人(優秀な社員)の性質・心理的要因】
    責任感が強く、振られた仕事や期待を「断れない・投げ出せない」
    問題点にすぐ気づいてしまい、放置できずに自ら拾い上げてしまう
    周りの作業効率の悪さに痺れを切らし、自分で引き受けてしまう

会社で優秀な社員の離職が発生すると、新たに後任の担当を割り振ったり、中途採用で頭数だけを補充しても上手くいかず、「その人だから成り立っていた」ということに始めて気づきます。

そして他の優秀な社員に「その業務を兼任させる」という「業務の上増し」がなされ、社内に残る優秀な社員は「労働時間の増加」「同時に複数の業務をこなさないといけないタスクの並行処理」を求められていきます。

社員の離職が発生するたびに増える仕事、そして変わらない給料、未来の危うさに真剣に対処しない経営陣。

この負のスパイラルが「早く逃げなきゃ逃げれなくなる。」という危機感を感じます。

これが中小企業で優秀な社員からやめていく理由です。

2. 「人手不足倒産」を招く中小企業で起きている2つの逆転現象

ここまでで中小企業で起きている「業務の中核を担っているコア社員から離職し、ぶら下がり社員と進入中と社員ばかりになってしまう理由」についてお伝えしました。

では次に中小企業で「人手不足倒産」を回避するために、取り組まなければいけない経営課題が何であるのかについてお伝えします。

①:新入社員と既存社員の給与の逆転現象

中小企業で人手不足倒産がおきている一つに「現場を支える優秀な既存社員の給料」と「新しく採用する人材の給料」の逆転現象が挙げられます。

新卒と既存社員の給与逆転現象

  • 新卒採用の初任給: 大卒平均で約23.0万円(採用難により数年で大幅増)
  • 中途採用(即戦力)の提示額: 約28.0万円(前職+10%以上の上乗せが常態化)
  • 今いる既存社員の昇給: 平均で年4,000円〜6,000円程度(ベアなし、定期昇給のみ)

例えば、入社15年目で現場の売上を支え、後輩の指導までこなしている職場の中核となっている30代後半のエース社員がいたとします。氷河期時代に入社したため、彼の基本給は約25.5万円であり、毎年の定期昇給学もわずかです。

にもかかわらず「今日入社したばかりの新卒」とたった2万5,000円しか変わらず、「外から入ってきた中途採用1年目」よりも低いという逆転現象が起きているのです。

その理由は単純で良い条件を提示しないと新卒や中途採用の応募がこないからです。

つまり、市場原理が働く転職・新卒採用には時代の流れに合わせた運用をするが、既存の社員は安く使おうとする。

どれだけ職場や仕事に愛着があったとしても、既存の社員を大切にしない会社の姿勢を見ればとっとと転職しようとするのも仕方がないことだといえます。

中小企業(1000人未満)における30代・40代の転職・離職データ比較

以下は直近10年の中小企業の転職動向をまとめた表になります。

評価・比較項目10年前の市場・データ現在(最新データ)のリアル経営・組織への影響
30代・40代の転職者数35歳限界説により少数約3.5倍〜5倍に急増中核となる30〜40代エースの社外流出が常態化
中途採用に占めるミドル層割合20代〜30代前半が中心50%以上(採用者の2人に1人が30-40代)他社による「既存エースの引き抜き」が激化
中小企業(100〜299人規模)
の年間離職率
約10%前後約14%〜15%で高止まり「10年で社員が丸々入れ替わる」計算
ミドル層の退職・転職理由結婚・介護・引っ越し等「給与・評価への不満」「経営への失望」がトップ社内の給与逆転・一律評価に対する見限りが原因
他社からの提示条件前職スライド(同額提示)前職+10%〜15%(年収+50〜100万円上乗せ)スマホアプリ等で常に「自身の適正市場価値」を把握

10年前までは転職というのはネガティブな言葉の代名詞でしたが、今では自分の価値を再評価するという認識に変わりつつあります。

「ネットの普及により労働者側が賢くなり、閉鎖的な環境で騙し続ける事ができなくなった。」

つまり、労働市場において”終身雇用”という日本の閉鎖環境のおかげで優秀な労働者が逃げなかっただけであり、労働市場が市場原理で動くようになったという事実を正しく認識する事が重要だといえます。

②:雇用側と被雇用側のイニシアチブの逆転現象

ネットが普及するまでは、雇用側と被雇用側では「給料を払ってやっている」という圧倒的な権力構造が存在していました。

経営者と社員、上司と部下、その間には絶対的な上下関係があったからです。

これまでは辞めたいと思いはしても、上司や言葉や職場の仲間との関係性によって「自分の努力が足りないのではないか?」という洗脳が成立していましたが、今では簡単にネットで検索、比較、質問、情報発信が出来るようになり、「そんな会社おかしいよ」や「それは条件悪すぎ」と会社や職場、上司の異常性を知る事ができるようになり、「わかりました。じゃあ辞めます。」と大きな決断をするための状況が整いやすくなりました。

簡単に離職を決断できる状況こそが、雇用側と被雇用側のパワーバランスを変えた一番の要因であるといえます。

即戦力社員は今後ほぼ採用できない状況になる

リーマンショックによる氷河期は圧倒的な買い手市場で、人が辞めても中途採用で簡単に人が補充できました。

しかし、転職市場が活発化し、離職率が上がる中で、新卒を育てても他社に逃げられる。即戦力の社員が欲しいというニーズの高まりから、中途市場の単価は高騰を続けています。

以下の表は即戦力人材に対する「企業の採用ニーズ(需要)」の動向をAIで出力した比較表になります。

評価・比較項目過去の数値指標現在の数値指標(市場ニーズ)データが示す「経営上の現実」
中途採用の求人倍率(即戦力ニーズ)約 1.5 〜 2.0 倍約 2.5 〜 3.0 倍超(職種・ミドル層では4〜5倍超)1人の即戦力求職者を「3〜5社」で激しく奪い合っている状態
中途採用実施企業の割合(中小企業)約 50% 〜 60%約 80% 〜 85% 以上「新卒が採れない」ため、中小の8割超が中途即戦力採用へ一斉シフト
「採用難」を感じている企業の割合約 50% 前後約 80% 〜 85% 前後(過去最高水準)全企業の8割以上が「必要な人材(特に即戦力)が採れない」と回答
35歳以上(ミドル層)の転職決定数全体の 約 10% 〜 15%全体の 約 30% 〜 35% 超(約3倍増)かつての「35歳限界説」は消滅し、転職成功者の3人に1人が35歳以上
ダイレクトスカウトの企業利用率約 10% 〜 20%約 60% 〜 70% 以上待ちの求人から、「他社の社員を直接引き抜きにいく」手法が主流化
即戦力1人あたりの採用コスト約 50万 〜 80万円約 150万 〜 200万円超(理論年収の30〜35%)1人を確保するための獲得単価(外注費・成功報酬)が2〜3倍に高騰

即戦力となる優秀な中途社員は、どこの会社も欲しい人材です。

つまり「社員が辞めても補充すればいい」ということが”給与待遇が悪い中小企業にとっては不可能になりつつある”ということを意味し、このことが経営者よりも社員側の立場が強くなることを加速させています。

「社員が辞めれば補充できず、職場が回らなくなる。」

これが「先輩や上司側が新卒社員に気を遣って接する逆転現象」が起きる大きな要因になっています。

3. 人手不足倒産を回避する「人的資源マネジメント」5つの防衛策

中小企業で優秀な社員から離職し「ぶら下がり社員」と「給料だけが高い新卒」そして「経験はあるが職場や業務に慣れていない中途」だらけの「生産性が低く、人件費だけが高い会社」にならないためには、前章で解説した2つの逆転現象(給与の逆転・イニシアチブの逆転)を根本から解決する必要があります。

今すぐ中小企業が取り組むべき、5つのHRM(人的資源管理)防衛策を解説します。

HRM施策①: 経営者・経営幹部が「行動心理学」を学ぶ

中小企業の人手不足をはじめとする人的資源に関する問題を根本的に解決するためには、まず経営者や経営陣自身の「人材マネジメントに対する認識のズレ」を修正することからスタートしなければなりません。

海外や欧米企業に比べ、中小企業の経営層の多くは、HRM(戦略的人力資源管理)や行動心理学の基本的な考え方が知らない人が圧倒的に多く、HRMとは採用や給与を払う計算、有給などの福利厚生という会社にとって人件費(コスト)を増やすというネガティブなものではありません。

例え同じ商材を売っていたとしても、競合他社に圧倒的な差を付けるための最重要経営資源であり、その産出をするための、コントロールシステムに他なりません。「コンサルに丸投げしたり、人事アプリを入れただけで満足する」という対応策をするのではなく、経営陣が真剣にHRMについて勉強するという姿勢がファーストステップになります。

経営者は「人材マネジメントは投資資源である」という認識をまず持とう

会社を成長させるための投資として、経営者は日頃から以下のような意思決定をしているはずです。

  • 新規顧客を獲得するための広告・営業投資
  • 品質向上・生産性向上のための設備更新や工程改善への投資
  • コストパフォーマンス(価格優位性)を作るための業務効率化・ITシステム投資
  • 他社との差別化を図るための商品改良や開発への投資
  • 戦略的に成長するための専門家(コンサルタント等)への相談投資

このように、経営者は「お金を使うこと(投資)」が嫌いなわけではありません。

なぜなら投資は自社にとって、使った以上のお金をもたらすからです。

にもかかわらず「人材への投資をコストとみなし、出来るだけ少なく抑えよう。」としてきた最大の理由は、自社人材に対してお金を使う事が自社に多くの利益をもたらすということを心の底では信じていなかったからです。

  • 「従業員が辞めれば新たに採用すればいい」
  • 「ベテランが辞めれば給料が高い奴が減って人件費が下がる」
  • 「AIや業務効率化ツールを入れれば解決する」

このような浅はかな発想で経営をしているから問題の本質が見えず、取り返しのつかない状況(人手不足倒産)になってから後悔することになります。

業務効率化ツールやAIで代替できるのは、ルーティンワークやネット上に転がっている一般論レベルの作業だけです。

「自社だからこそ生み出せる価値(独自の強み)」

これこそが市場で生き残るための競争の源泉であり、それを作り出すのはツールや仕組みではなく「自社の社員」に他なりません。

なぜ「離職率が高い会社」は絶対に成長できないのか?

たまに「離職率はある程度高いくらいが、人材が流動化して良い」と言う人がいますが、それは「会社側が『辞めてほしい』と思っているローパフォーマーだけが辞めている場合」限定の話です。

優秀なコア人材が抜けているなら、それはただの組織崩壊です。

究極的に言えば、暦の浅い人材でも任せられる業務であれば、正社員でなく学生アルバイトを使えば安くつきます。しかし、会社の生産性・他社との差別化・品質向上をするのであれば、従来の業務の繰り返し(コピー)ではいけません。

会議の前に事前に資料をメールで送り、会議の議題に対する改善案や職場で取り組んでいることを報告させ、良いものがあればそれを会議で共有しよう。また普段の業務は出来るだけ早く終わらせ、空いた時間に効率化や品質向上の実験をさせ、上手く居ればインセンティブを与える。

そうやって少しずつ変化を積み上げていった先に生産性向上、人件費率の削減、利益向上が実現されます。

しかし、人材の入れ替えの激しい職場だと、既存の社員は「自分の本来の仕事をこなしながら、新人の仕事への指示、進捗管理、作業品質の確認、指導、アフターフォロー」まで抱え込むことになります。

そして「また辞めたか」と思うようになれば、「どうせ教えてもやめるし」という気持ちになり、新人への手厚い対応はなくなり、離職率が更に悪化するという負のループが加速します。

つまり、人が頻繁に入れ替わる職場は、構造的に生産性が落ち続けるのです。

自社が勝ち残るためには、「いかに職場を優秀な人材で埋め尽くせるか」「現場の最低パフォーマンスを底上げできるかが全て」です。

「穴の開いたバケツ」に水を注ぐのをやめよ

中小企業で「即戦力の中途人材」を取り合っているのは自社の人材戦略において「バケツの底に巨大な穴が開いている状態」だからです。

  1. 既存の社員を大切にせず、育てても育てても辞めていく
  2. 社内に育てる体力がなくなり、手っ取り早く「即戦力」を求め始める
  3. 即戦力を巡って他社と高額な奪い合い(採用競争)に巻き込まれる

中小企業が今すぐやるべきことは、即戦力・中途人材を提供する採用エージェントに高額な費用を貢ぐ「格好のカモ客」であり続けることではありません。

経営者・経営陣が最優先の経営課題として全エネルギーを注ぐべきは「手塩にかけて育てた優秀な人材に逃げられないための『人材プロテクト(HRM・心理学に基づく組織防衛)』」の重要性を心のそこから認識することです。

設備投資やWeb広告投資と同じように、「人材(マネジメント)への投資」に今すぐ本気で向き合わなければ、企業の未来はありません。

HRM施策②: 給与を通じて社員に動機付けを行える仕組みを作ろう

中小企業の多くは「人事=毎月の給与計算と社会保険の手続き」という単なるバックオフィス作業だと錯覚しています。

しかし、人を生かして利益を最大化するHRM(Human Resource Management:戦略的人力資源管理)は、経営戦略そのものです。

社労士や会計士は「法的な守り」や「コスト計算」のプロであっても、「事業を勝たせるための人の活かし方」を教えてはくれません。具体的には、自社の評価と還元において、以下の2つの課題に戦略的に取り組む必要があります。

課題1:日本企業特有の「年功序列型(一律評価)」からの脱却

中小企業で優秀な社員から辞める一番の問題は「人事考課(評価)の差が、給与の差にほぼ反映されない(相関がない)問題」です。

多くの企業で「S・A・B・C」といった評価制度やMBO(目標管理制度)が導入されていますが、実際には「現場の管理者が差をつけるのを嫌がり、全員にB評価をつける」「最高評価を獲得しても月額でわずか数千円〜1万5,000円程度しか変わらない」といった事なかれ主義現場運用がなされています。

制度がそうであっても、肝心のそれを運用する現場の責任者が保守的では上手くいくはずがありません。

【評価ランクごとの昇給・還元額の実態例】

評価ランク該当する社員層月額昇給の差(目安)年間での給与差(目安)
S評価(最高評価)会社の利益を大きく押し上げた圧倒的エース+12,000円+14.4万円
B評価(標準評価)与えられた業務を可もなく不可もなくこなす層+6,000円基準
評価による対価圧倒的な成果・貢献度に対する還元額たった+6,000円/月たった+7.2万円/年

上記の例では、会社の利益を何倍も叩き出したエースと、指示待ち生活残業社員の年収差が「年間でたった7万円程度」にしかなりません。

仕事ができない社員からすれば、中小企業における給与はベースアップ(一律昇給)が基本の人事システムは天国のような環境ですが、エース社員からすれば「圧倒的な成果を出しても給料に微々たる反映しかされないなら、自分に高い給与ベースのオファーを出してくれる競合他社に転職しよう」となるのは至極当然の心理です。

もちろん、中小企業が大手並みの潤沢な原資を用意することは不可能です。

しかし、労務費・人件費というは売上の20〜30%前後を占める割合の話であり「その限られた原資を全員で一律に分けるのか、それとも貢献度に合わせて配分に劇的な差をつけるのか」を判断することは、中小企業であっても今すぐできることです。

報酬システムを変えて格差をつければ、当然ながら既存の「ぶら下がり社員」からは不満が出ますし、制度刷新時にはある程度の離職者も出るでしょう。

しかし、「大切なのは『誰が辞めたか』」です。

経験が豊富で職場全体の成長を補佐してくれるベテラン社員、職場の生産性・利益を生み出してくれるエース社員、そして将来有望で向上心のある若手だけが残り、やる気も意欲もない社員だけが去っていく。これこそが本当の意味での健全な人材流動性であり、給料・報酬体系が正常に機能している組織の姿です。

課題2:非財務指標を取り入れ、陰の功労者を拾い上げる多角評価

ただし、単なる「数字だけの成果主義」に急舵を切り、組織を崩壊させて失敗しないように注意が必要です。

例えば「面倒見が良く、人当たりが良くて若手の育成が上手いベテラン社員」がいたとしましょう。この人は目に見える個人の売り上げ数字が大きいわけではなく、華々しい業績指標を叩き出しているわけではありません。

もし人事評価を「個人目標の達成率(数値予算)」だけで行えば、こうした組織の接着剤となる人材を低評価して失うことになります。

業績評価だけを見て評価を行うと、目の前の数字だけを追いかけ、他者を蹴落とし合う「殺伐とした戦場」になってしまい、会社の貢献者をすべて排除してしまうことになりかねません。

そうならないために、数値目標だけでなく以下のような「非財務指標(プロセス・組織貢献度)」を評価軸に組み込むことが極めて重要になります。

  • 職場での利害調整を行い、チームの人間関係を円滑にしてくれる人
  • 優秀だが血の気の多いエース社員をなだめ、コントロールしてくれる人
  • 様々な部署の視点を取り入れ、一つのアイデアにまとめてくれる人
  • 未完成で粗い施策や指示を、現場で臨機応変に対応してブラッシュアップできる人

会社に真に貢献してくれている社員を絶対に取りこぼさない評価軸を設計すること。これこそが本当の意味でのHRMであり、売上などの「数値」は戦略を現実に変えるための道具の一つに過ぎません。

「人事クラウドアプリを導入すること」が人事施策なのではありません。

アプリやツールの裏側にある「自社の思想に基づいた運用の徹底」こそが、他社に真似できない人事ノウハウの正体です。それを理解せずにコンサルの言われるがまま型通りの評価制度を導入すれば、逆に優秀な人材の流出を加速させる結果になります。

人事考課でどのような観点で評価し、その評価点をどのように給与に反映し、限られた人件費率を誰にどう配分していくのか?

給与の計算1つとっても、働いている社員の動機付けの源となるマネジメントの仕組みとして考えなければいけません。

HRM施策③: 見えないコストを可視化する考え方を見につけよう

「人財」や「人は宝」 この言葉は、日本の経営界でも散々言われてきた言葉ですが、心の奥底では「綺麗ごと」と中小企業の経営陣はきっと思っていると思います。だから給料も上げず、離職率が上がり、中途採用で賄っていたものが中途転職市場の暴騰によって、募集が減り、新卒も集まらなくなってきた。

だからこそ「新卒・中途の給料と既存社員との逆転現象が起きた」のではないでしょうか?

それは経営者のせいというよりも、日本企業がマネジメントに対する理解をしないまま、ここまで来てしまった事が原因です。

多くの経営者は「給料を上げる」ということに対して「固定費用が上がる、つまり原価が上がる、利益が出ない」と思うからです。特に日本企業は物価の上昇やサービスの高品質化に伴い価格を上げるのは苦手なので「原価が上がれば価格を上げるしかない。それではお客さんは離れてしまう。」と感じ、人件費を上げることには難色を示します。

「変化がないのであれば、ずっとこのままでいたい」

この保守主義的な思想こそが、中小企業を人材倒産へと導く一番のガンであるといえます。

目に見えないリスクやコストを見るための戦略眼を見につけよう

物価は緩やかに上昇していきます。それは日本も同じで30年前と比較して給料は変わらなくても、土地代や食べ物の値段は昔と比べてかなり上がってきています。

時代に合わせて「給料を上げてきた会社とそうでない会社」、「自社の価値を高め、他者と差別化を図り、少しずつ値段を上げても顧客離れを起こさなかった会社と値段は同じで人件費や原材料をけちってごまかしてきた会社」の明暗が分かれるのは当然です。

人材不足倒産は日本の平均給料の上昇が止まったあの日から始まっていたのです。

中小企業が現状維持をしていても、周りの会社は変わっていきます。そして気付けば、自社の福利厚生や給与体系は2,30年前のままで、他社との差は大きくついている。自然淘汰といえばそうかもしれませんが、日本の中小企業は、独自の技術や素晴らしい理念をもって地域密着している企業が数多く存在します。

今に縋りつくのではなく、こうした見えないリスクやコストというのを可視化することに取り組みましょう。

現状維持をするというのは、他社に差をつけられることを受け入れるという選択でもあります。

それはゆるやかな滅びの道であり、そうならないように「積極的な変化というのを自ら選択する」という覚悟を持ちましょう。

そのために必要な事が「見えないコストを可視化する」ということになります。

独自の管理会計で弾き出す「隠れ離職損失P/L」

そのためにまずやらないといけないのは「社員が辞めることで発生する本当のコストを正しく知ること」です。

「社員が1人辞めた」とき、中小企業の責任者は、税理士や会計士から提出される「財務会計の決算書」しか見ていません。

そこには「人が何人足らない。中途採用で○円の支出、新卒採用広告に次年度○円の予算計上を見込む」など、求人費用の数字しか見ていません。だから「既存の社員が辞めることで職場、会社に波及する損失」という事に気付かず、人材の低下という会社を蝕む病気の早期治療に遅れ、末期患者の状態になって始めて気づくのです。

そもそも決算書や確定申告用の財務会計指標データは、過去の支出の内訳を確認するための数字であって、未来の経営判断をするための数字ではありません。

コア人材の離職によって発生する会社がこうむる不利益は以下のものになります。

離職に伴い発生するコスト一覧

  • 新卒・中途採用のための採用費(100~200万)
    転職エージェントへの成功報酬、求人媒体費、面接などの人件費
  • 一人前になるまでの教育費(500万〜1,000万円)
    新卒や中途への業務引継ぎや作業の進捗確認や指導、トラブル発生が増えることによる損失
  • 業務停滞・サポートロス(300万〜500万円)
    退職から補充までの期間で残された社員の残業代増大と生産性ダウン
  • 機会損失(1,000万〜3,000万円以上)
    顧客の競合流出、新規案件の失注、自社ノウハウの流出

上記はあくまで優秀な社員が離職した場合ですが、一般社員の場合であっても、中小企業でサービス残業などの問題が多発するのは「人がやめる、仕事が分からない社員ばかりになる。教えながら作業をしなければいけない、ミスをすればフォローしなければいけない、ミスをすることが多いので作業の監視をしなければいけない。自分の仕事が進まない」という職場全体の生産性が大きくダウンするからです。

理想の職場とはどのような状態か?

それは「責任者が指示をしなくても、社員がプライドを持って仕事をし、高い品質意識で作業にこだわり、報連相を自ら行い、仕事の効率化を図る。先輩や上司の仕事は、指示をすることではなく、部下や後輩の相談を受け、アドバイスすることである。」様な職場です。

昔の日本は終身雇用が前提だったのでこの図式が成り立っていました。誰もやめないので、全員が熱心に仕事を教え、人間的に成長できる経験を積ませ、自己判断で仕事をする機会を与える。そして成長したベテラン社員が若手を鍛え、次世代に技術や理念、経験を伝えていく。

これらはすべて「定年まで自社にいてくれている」という前提のものに成り立っていました。

つまり、全ての元凶は離職にあり、この離職が生み出す本当の損失を数値で把握する事が何よりも重要です。

財務会計は所詮、税金申告や株主に報告するためのテンプレートに過ぎず、会社のマネジメント状況を可視化する独自の管理会計を導入する、あるいはこういうコストが潜在的にかかっているんだ、と意識する事から始めましょう。

「市場獲得難易度」で全社員に自社独自の指標ラベルを貼れ

ここまでで人材マネジメントにおいて「プロスポーツみたいだな」と思われたかもしれません。

その通りで「他社に流出しないようにプロテクトする人材」、「他社に流出しても良い人材」の2つに区別する事が大事です。

【管理会計に基づく「人材獲得難易度」ラベル分類】

管理指標ラベル現場における定義離職時の管理会計上のリアル経営陣が取るべき戦略
ラベルA:獲得不可(超困難)独自のノウハウを持ち、顧客の信頼と現場の利益を支えるエース人材年収1,000万円+採用費300万円を提示しても、現在の労働市場では二度と採れない給与原資・待遇・快適な環境を圧倒的に偏重投資し、死守する
ラベルB:中途で獲得可能マニュアル化された定常業務や、代替が比較的容易なオペレーションを担う層適切な求人コストと期間をかければ、市場からの補充・代替が可能業務の標準化・マニュアル化を進め、組織的な補填体制を構築

「全社員を一律・平等に評価しなければならない」という思い込みは、管理会計の視点が欠落している証拠です。

「二度と獲得できない数千万円の価値を持つエース(ラベルA)」と「市場から代替可能な層(ラベルB)」に対し、同じような昇給幅やリソース配分を行っているから、優秀な人間から見切って辞めていくのです。

独自の管理会計によって「誰がどれだけの利益を生み、失うといくらの損害になるのか」を数値で把握し、二度と採れないコア人材に給与原資を集中投下する。

「去年よりも今年の方が社員の質が高い、だから人件費の上昇以上に生産性が上がる、だから利益が上がった。」

人件費を上手く分配し、仮に人件費が上がったとしても、それ以上に生産性や収益が上がれば、人件費率は下がります。

HRM施策④: ツールではなく自社ならではの運用ノウハウを蓄積しよう

ここまでは優秀な人材が他社に流出させない、優秀な人材を獲得するための”守りの施策”の話でした。

ここからは中小企業でも、自社ならではの価値を創出するための攻めのHRM施策の話をしていきます。

HRMツールや報酬制度の設計は外部に委託していいが運用を委託してはいけない理由

中小企業の大半がHRMと聞けば「勤怠管理システム」や「報酬制度の設計を人材コンサルに外注する」という解決法が中心になると思います。

「最新の人事評価クラウドアプリの導入」は自社のHRMにおけるハード部分、土台を作っただけであり、自社に合う形で運用をカスタマイズしなければ効果を発揮することはありません。

  • なぜ、同じ人事評価システムを使っているのに、業績が伸びる会社とそうでない会社に分かれるのでしょうか?
  • なぜ、同じ評価シートを使っているのに、優秀な社員が残る現場とそうでない現場に分かれるのでしょうか?

それは人材管理において、戦略部分までも外部の人間、会社に丸投げしてしまっているからです。

システムやアプリは、ただの「箱(道具)」に過ぎません。その道具を使って現場の管理職がどう部下と向き合い、どう納得感のある評価を伝え、どうキャリアのモチベーションを引き出すか。

ツールをどう扱えば、職場に貢献するコア社員の会社に対する愛着を高め、やる気ある若手社員の成長意欲を引き出せるのか?

仕組みの現場での運用のカスタマイズこそが他社がどれだけお金を積んでも絶対に真似できない「自社独自のノウハウ」の正体です。

経営陣が予算を整備し、現場の責任者が戦略に基づく運用をできるようになろう

例えば、昇進・昇格であれば、職位にあわせてどれほどの給与の差をつけるのか、職位は低くても「若手教育」や「社内交渉」など、職場に対する貢献度が高い社員に対してどのような手当てを付けていくのかは、経営陣が設計しなくてはいけません。

しかし、現場で「評価が低い社員に対してどうすれば評価が上がるのかの方法をきちんと伝える」、「能力があるが入社間もない社員には今後こういう評価をしていきたいという期待を伝える」などの演出部分は現場の仕事です。

別に現状で評価が低いのは問題ではありません。客観的かつ公平に評価し、どういう行動が問題で、どういう役割やどういうことが出来るようになれば査定をあげていくという宿題さえ出せれば人は納得します。

つまりHRMツールとは、アプリを導入するだけでは意味がなくて、コンサルと打ち合わせをする経営陣だけが分かっていればいい話しではないのです。

評価シートの運用者として正しく採点できるスキル、そしてその採点結果を正しく伝え、良い未来に向かってモチベートできるスキル、理想とするチームの構想に応じて、メンバーの適正にあわせて伸ばしていく能力を見極めるスキルが必要になります。

その訓練もせずにアプリだけを導入するから上手くいかないのです。

一番にお金をかけるべきは、HRMツールを現場の責任者が使いこなせるように、HRMとは何かを自社の中間管理職に伝えていくことであるといえます。

HRM施策⑤: 仕組み化と属人化のハイブリッドを目指そう

最後に「マニュアル化・標準化(属人化の排除)は正しいとは限らない」ことについてお伝えします。

経営学において標準化(仕組み化)が重要であるといわれる前提条件

世の中の経営学の書籍を読んでみると必ず「仕組み化」という言葉がでてきます。なぜ仕組みが経営において大事かというと、サービスや製品の品質を標準化できるからです。

例えばラーメン点を経営していて、A店舗とB店舗で味が変われば大問題ですよね。○○ラーメンが大好きで、別の町に寄ったときに「○○ラーメン食べたいなと思って店に寄ったら全然違う味だった」となれば、会社的に大問題です。だからこそ、業務工程や手順をマニュアル化したり、アプリによって標準化・統一化することで品質を保とうとするのが、会社の規模を大きくする上で重要になります。

しかしそれは製造部門や大規模の業種に限ったことであり、そもそもあらゆる業務を標準化することなんて不可能なんです。

仮に営業のやり方をマニュアルに落とし込んだとして、スーパー営業マンの哲学をすべてテキストやツールに落とし込むなんてこと可能だと思いますか?

答えは無理です。

「属人化は悪だ。すべてマニュアル化して仕組み化しろ」と息巻く経営者がいますが、「そもそもマニュアルやシステムというものは組織の最低品質を底上げするためのもの」に過ぎません。

中小企業だからこそ出来る臨機応変な仕組み化×属人化のハイブリッド

つまり小回りの聞く中小企業において、最も大事なものは「マニュアルやシステムを作った先」にあります。

現場で桁外れの成果を叩き出すエース社員(外れ値)のパフォーマンスをすべてマニュアル化するなどと思わずに「成功事例から変数を抜き出して標準化できるものは仕組み化に取り入れ、その一方で好き勝手に裁量権を与える」ようにしましょう。

これはトップとメンバーの距離感が近い中小企業だからこそ出来るメリットです。提案から承認までのプロセス二時間がかかる大手には決して真似する事ができません。

  1. 再現性の抽出
    現場やエースの動きから「誰でも真似できる要素(変数)」だけを抜き出し、組織の標準マニュアルとして全体へ横展開する。
  2. 属人化の奨励
    マニュアルからはみ出るレベルの「飛び抜けた才能(外れ値)」を持つ社員には、管理者に裁量権を与え、ガチガチのルールに縛り付けずに自由にパフォーマンスを発揮させる。

これこそが「高度に仕組み化されつつも、極めて柔軟に動ける組織」の運用の本質です。

頭の固い経営者は、本で勉強した「マニュアル化・仕組み化」を過剰に信じ込み、せっかくの天才的なエース社員の才能までルールで押し潰して殺してしまいます。常にフラットな視点で例外(外れ値)を認め、仕組み自体を日々ブラッシュアップし続ける柔軟性を持つようにしましょう。

まとめ:人手不足倒産は人をコストだと思うところから始まる

本記事では「中小企業で起きている人手不足倒産」の理由と「その解決法である5つのHRM(戦略的人力資源管理)防衛策」について解説してきました。

「人が辞めたら、また新しく採用すればいい」

「うちの社員は長年勤めてくれているから大丈夫だ」

コストを払えば人材は補充できるという論理は中小企業では成り立たなくなってきています。

なぜなら20年前の給料水準と生産性、利益率のままであるからです。

それでは今の時代が求める給料も払えず、仮に採用できたとしてもすぐに辞められてしまいます。人手不足倒産を回避するためには、自社の人材を底上げし、育てた人材が会社の生産性向上に貢献し、より多くの給与を払えるような体力を会社がつけなければいけません。

人件費を「削るべきコスト」と捉え、既存の優秀な社員への還元をケチり続ける企業は、これから容赦なく「人手不足倒産」の波に飲み込まれていくでしょう。逆に、「人」を最重要の経営投資資源と位置づけ、戦略的なHRMへと舵を切った中小企業だけが、大手企業すら凌駕する強い組織を作り上げることができます。

自社の未来を支えるエース社員を守り抜き、勝てる組織を作るための「本当の意味でのHRM防衛策」に取り組みませんか?

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