「経営理念やクレドとは、会社の存続目的、価値基準、仕事をする目的を全社員で共有するために必要な言語」です。
会社組織とは、単なる個人の集合体ではなく、同じ目的・同じ価値感・同じ判断基準を持った”生き物”でなくてはいけません。
そんな創業者の想いを引き継ぎ、時代と共にアップグレードしてきたビジョン(理念)に関して、”うさんくさい”と感じる若者が増えてきています。
「朝礼で唱和をするのが時間の無駄」「精神論じゃなくて論理的な管理をしてほしい」「やりがい搾取で給料は増やさない」
上記のような若手社員の声を「令和の子達はそんなものか」と片付けていないでしょうか?
結論から言うと、ビジョン<理念>に対して若手社員が共感しないのは”経営のミス”です。
これまでは「先輩が言うから」「会社の方針だから」と盲目的に従うことが美徳とされた時代でしたが、インターネットやSNSが普及し、労働者たちは「良い上司とは何か」「ブラック企業とは何か」をあらゆる情報から比較し、選択できる環境になりました。またネットやSNSを通じて「やりがい搾取」やブラック企業の実態を知り、「自分のキャリアをどうしていくか?」を考えられる賢い労働者が大半をしめるようになりました。
「情報武装した合理的な若手社員」に、額縁に入っただけのビジョンが響くはずもありません。数百万、数千万円をコンサルに支払って立派なビジョンやクレドを作ったものの、「作っただけで現場は1ミリも変わっていない」という会社が後を絶たないのはそのためです。
では、令和の若手社員に自社ビジョンを響かせ、若手社員に当事者意識を持たせるには「若手社員のこれからのキャリア」と「自社の理念(ビジョン)」をつなぎ合わせる”翻訳作業”が必要になります。
中小企業や創業間もないスタートアップ企業でも、理念に共感し、管理職と同じような価値感とやりがいを持って働いてくれる若手を量産する方法をお伝えします。
1. Z世代の若者に会社の理念やビジョンが響かない3つの理由
「入社時に会社のビジョンや理念を熱心に伝えても全く共感してくれない」や 「会社のイベントでビジョンの唱和をしても熱心にいうのはベテラン社員だけで、若手社員は口パクばかり」など、多くの経営者や管理職が、こうした若手社員の理念に対する冷ややかな態度を感じています。
しかしそのようなZ世代の若手社員の態度に対して「最近の若い奴は自分の事ばかりでドライだ」や「会社とまでは言わないが、職場で足並みを揃えようという気がない」など、その原因を若者側の価値感や個人の資質のせいにしてはいけません。
会社のマネジメントが機能しないのを社員のせいにしてしまえば、組織の成長はそこで止まってしまうからです。
理念(ビジョン)というのは、精神論でも理想論でもありません。
「なぜZ世代の若者が会社の掲げる理念に対して共感しないのか?」
その理由をこれからご説明します。
理由①:理念を作っただけで社員に理解してもらえると思っているから
理念やビジョン、クレドの作成は、経営者にとても喜ばれる経営施策です。
経営者や経営幹部というのは、現場社員に接する機会がなく、自分たちが何を大切にし、どういう価値感で動く社員を増やしたくて、どういうことができるようになれるかという目標を立てるときの指針を全社員に伝えたいと思うからです。
それが社訓やクレド、経営方針や理念、ビジョンといった形で自分たちの想いを言語化しようとする理由です。
自分たちが本当の意味で理念を理解したのはいつであったのかを忘れている
そういった経営者・経営幹部の想いが込められている理念であっても、毎日の朝礼や会社のイベント時の唱和や管理職昇格時のテストをするだけでは、Z世代の令和の若手社員に響くことはありません。
入社まもない若手社員にとっては「それは会社の都合であり、自分たちには関係がないこと」と感じるからです。
会社組織だけでなく、スポーツチームにとってもそれは同じです。監督やコーチの哲学や大切にしている持論を理解するには時間がかかります。
何度もコミュニケーションを取って、練習で上手くいった時は「○○を意識できているな、それを続けていれば△△ができるようになる。この調子で頑張れ」といったように褒める、失敗した時も「なぜ怒ったかわかるか?それは△△ができなければ□□と考えるようになるからだ。今のままでも結果はでるかもしれない。でもいつか◎◎の壁にぶつかるからだめなんだ」といったように諭す。
こうしたコミュニケーションの積み重ねの先に、指導者の掲げる哲学を深く理解し、それをキャッチコピーとして言語化した理念というものに深く共感し、「自分もそうなろう。」や「それを体現できるような人になろう。」と思うようになったのではないでしょうか?
改めてもう一度聞きます。
今の会社の掲げる理念や方針に本当の意味で共感できたのはいつの頃でしょうか?
それは入社して間もない時期ですか?管理職になった時ですか?それとも一皮向ける大きなきっかけがあったときですか?
間違いなく、入社間もない若手の時は出来ていなかったと思います。
自社が掲げる理念を本当の意味で理解・浸透させるには表面的な施策では実現不可能な理由
理念というのは、創業者が自分のしてきた半生を凝縮し、それを2代目以降の経営者が経営幹部と共にアップデートしてきた、いわば会社の歴史です。
それを本質的な対話を避けて、ただ唱和する、暗記させる、発表させるなどの表面的な行動を求めていないでしょうか?
理念の浸透で失敗する例
- 「クレドやビジョンについて暗記できているか」を月に一度の面談でチェックされる
- 社員食堂や休憩室の壁など至るところに、社長の経営理念や社訓ポスターが貼られているなど、圧が強い
- 「今日の学びと理念への落とし込み」を社内ラインや日報などでの報告を義務化されている
- 朝礼や全社員が参加する社内チャットで「今日のクレド実践宣言」の発表をさせられる機会が多い
- 飲み会の乾杯の音頭が「今月のビジョン達成に向けて、乾杯!」と強制的に理念に絡められる
「まずは慣れよ」という事も大切ですが、そこに「強制力」があると逆効果になります。
なぜなら若手社員にとっては「理念を理解する・覚える暇があるなら仕事をさせてくれよ」という心理的な負担になり、「理念やビジョンというのは自分の仕事の邪魔をする邪魔者」になってしまうからです。
そういったマイナスの固定観念が生まれてしまえば、理念などを伝えた時も間違った解釈をしがちになるので、より理念浸透がしにくくなり逆効果です。
むしろ、朝礼の唱和で「若手に大きい声で言え」とか強制することなく、ベテラン社員たちが自信を持って唱和する姿を見せることで、少しずつ変化していくということはあるので、ライトな感じで理念を唱和するというのは効果的です。
そのため理念浸透施策においては「精神的な負担とならないように強制はしない。というのが絶対のルールである」と覚えて起きましょう。
経営哲学や自社ビジョンの真の浸透は行動や言動に内包されるべきもの
経営理念や自社ビジョン、クレド、社訓が本当の意味で浸透している状態について考えて見ましょう。
本当の意味で理念が浸透していれば、全ての従業員は以下のような言動や行動をします。
理念経営が浸透した組織の例
- 意思決定・仕事の優先順位の基準が理念に基づいたものになる。
- 「自分がしたいこと」が知らず知らずの内に「会社が求める行動」になっている
- 「指示通りに動く」ではなく「この会社の社員であればこうすべきだ」と考えられる
- 「怒られないための質問や確認」よりも「これをしても良いですか?」という行動許可の確認が多い
- 「社訓やクレド」が暗記ではなく、共通言語として社内の会話の中で飛び交っている
- 職場で飛び交う愚痴が「会社や上司への不満」から「こうするべきだという建設的な議論」である
- 問題が起きたとき「誰のせい」ではなく「どうして解決するか」という会話が多い
- 上司を「監視・評価してくる敵」ではなく「自分の目的を達成するための味方」として使い倒す
- 評価面談が「評価者の査定にこびる場」ではなく「どうすれば自分の価値を挙げられるかのヒントを知る場」である
- 退職が「逃亡(不満退職)」ではなく「キャリアアップへの円満退職」が大半である
あなたの会社はいくつ当てはまるでしょうか?
理念を本当の意味で浸透させるのであれば、まずは職場の上長が理念やクレドにある言葉を使い、それを管理職にも普段の会話で使うように仕向け、現場の社員全員がそれらの言葉を日常会話の上で使うように仕向けていく。
これが共通言語としての理念です。
そして仕事ぶりを褒める時や叱る時も、理念に含まれるフレーズを使うことで、理念が張りぼてじゃない価値あるものとして認識させます。
これが理念の価値付けです。
そして同じ共通言語、価値感を共有することで仲間意識を醸成し「君もウチの人間らしくなってきたね」と本当の意味でチームの一員になったことを歓迎する。
これがわが社らしさの正体です。
つまり「Z世代の若手社員が理念に共感しない」のは「若手社員に理念への理解をしてもらう翻訳作業」を怠り、受験勉強の暗記のように押し付けている事が原因なんです。
Z世代の若者が理念を避けているのではありません。
よくわからないものを会社員だからといって、盲目的に受け入れてくれることがなくなっただけです。
「理念をしっかりと若手社員に伝えていく」という翻訳作業を行えば、Z世代の若者にも”わが社らしさ”に共感してもらうことは十分に可能です。
理由②:「満足して入社していない新参者」に理念を響かせようとするから
経営者が感じる昔というのは、20年以上前の日本人を想定されていることだと思います。
20年以上前の日本人の感性というのは、年功序列で体育会系のような組織ばかりでした。
その時の労働者は、自分の会社や上司がどんなに理不尽であっても、「社会の当たり前」として受け入れるしかありませんでした。
なぜなら転職というのも一般的でなく「退職すれば社会不適合者の烙印を押される」という認識が労働者側にあったからです。
だからこそ、どんなに意味がないと思われる理念の唱和であっても、全力で唱和するし、暗記しろと言われれば、全力で暗記する。
それは理念に共感したからそうしたのではなく、そうしなければ職場でつまはじきに合うからそうしただけに過ぎません。
つまり、Z世代の若者が理念やビジョンに共感しなくなったのではなく、理解できないことを隠そうとしなくなっただけというわけです。
選択する側よりも選択される側の方が心理的に強くなった
令和のZ世代の若者が会社への不信感を隠さないようになったことは離職率というデータにも表れています。
以下の表はAIに出力させた「新卒入社の3年離職率」と「入社時の不満」、「仕事感」に対する3項目をまとめたものになります。
| 調査・指標項目 | 実態データ・傾向値 | 若手社員のリアルな心理構造 |
| 新卒入社者の早期離職率 | 大卒の約33%以上が3年以内に離職(中小企業ではさらに高水準) | 「最初の会社に骨を埋める」という発想はなく、合わなければいつでも抜ける準備をしている |
| 入社時の妥協と不満 | 若手・中途層の過半数が「給与・労働条件、またはキャリアの期待値にギャップがある」と回答 | 「第一志望ではなかった」「選べる選択肢がなくて妥協した」という不本意な状態でスタートしている |
| 仕事・会社に対する捉え方 | 労働を「生きがい」ではなく「契約に基づく等価交換」と捉える傾向が主流 | 会社への無条件の忠誠心はなく、自身のスキルアップと報酬のバランスを冷徹に見極めている |
就活で第一希望の会社に内定をもらえた人はほんのわずかの人たちだけです。
「何十社も選考を受け、給料と待遇をメインに、そこにわずかな仕事へのやりがいを足した結果、今の会社に落ち着いた」
上記のようなものが就活者にとっての本音だと思います。
そのような考えを持っているところに「数年でスキルアップをして転職市場での自分たちの価値をあげよう」という風潮が加わればどうなるか?
「業務に直接関係がない理念」を押し付けられたら「この会社はやばい」と思うと思いませんか?
もちろん、声を大にして「理念の唱和って意味がありますか?」というようなそんな行動をとることはないので、当たり障りのなく、小さい声で唱和し、「その場を乗り切ろうとする感じ」になります。
これが「Z世代の若者に理念を一生懸命伝えようとしても響かない」と感じる正体です。
会社が目指す組織目標と若手社員が目指す個人目標をリンクさせる事が大切
テレビやラジオ、新聞というものが主流で多くの人が受身であった時代から、SNSで個人が自由に発信できる現代では、組織よりも個人を重視する価値感に移り変わってきています。
だからこそ「国のため、社会のため、会社のため、職場のため。といった組織のための個人」ではなく「個人のための組織」といった、社員たちが目指している「自分たちのキャリア上の目標」と「会社が目指す組織目標」をリンクさせていく事が重要になります。
転職市場の例で言うと「転職市場においてはマネジメントの経験やプロジェクトリーダーの経験の有無」が重要になります。
1人で出来ることには限界があり、いかにチームを動かし、他社を含む関係者と利害調整を行い、トラブルシューティングをしながら臨機応変に対応できるスキルが求められます。その一方で好き勝手に動くのではなく、会社の方針やルールに沿った形でまとめあげ、成果を出していく組織人としての能力も同時に求められます。
「ウチの社訓にもあるように、こういった事の出来る人材になる事を目指すのは、必ず君の価値を高めることにつながる。これはただ理想論を言っているのではなくて、この業界であれば当たり前の考えなんだ。その上でこういった事を意識すれば、更に付加価値を生み出し、うちだけじゃなく引く手数多の人になれるよ。」
上記のように社訓やクレド、ビジョンや理念に秘められた行動模範基準を社会の一般常識に当てはめることで、この会社だけがいっていることではなくなります。
「ビジョンや理念に則った行動や言動を心がけることで、自分のこれからにもプラスになる」
上記のような認識を持たせることができれば「理念やビジョンに隠された本質をもっと深いレベルで知りたい」という気持ちを刺激することができます。
理由③:インターネットによってあらゆる事が比較対象になっているから
この20年の間に日本人が「集団志向から個人志向」へと変わったのは、インターネットによる情報の比較が容易になったことが挙げられます。
閉じられた環境から開かれた環境(比較される時代)へ
20年前の日本人は、「個人が得られる情報」がとても少ない”閉じられた環境”でした。
つまりいったん入社すれば、他の企業の給与や待遇・人間関係なんてものは分からず、”自分の今いる会社だけが自分にとっての当たり前”でした。そのためどんな理不尽なことをされても、「生活の為に頑張る」という一身で定年まで働き続けるというのが、日本社会にとっての当たり前でした。
しかしSNSの普及により「世の中のホワイト企業の職場風景とブラック企業の実態」を誰もが簡単に比較できるようになり、「自分がおかしいのではないんだ」「やめても次があるんだ」という退職への心理的なハードルが下がりました。
技術的な進化や転職市場の活発化により「会社・職場という存在が労働者にとって開かれた環境」に変わったのです。
そうした開かれた環境において、理念をZ世代の若者に伝えた時、その反応は以下の2つにはっきりと分かれます。
| 比較項目 | 良い会社(ロジカルな還元構造) | 悪い会社(やりがい搾取の洗脳構造) |
| 理念の位置づけ | 個人の成長や市場価値を高めるための「手段」 | 会社を存続させるための「精神的な従属装置」 |
| 成果の還元 | 理念を体現し、業績に貢献した分だけ「報酬・昇給・待遇」としてダイレクトに反映される | 理念や愛社精神を説くだけで、給与や労働環境の改善は後回し(精神論でカバー) |
| 若手の捉え方 | 「この会社で実績を出せば、自分の市場価値と富が手に入る」と納得 | 「言葉巧みに無償の労働や過重労働を美化されているだけ」と、巧妙な洗脳として看破 |
昭和世代よりもはるかに賢く、日々膨大な情報を処理できるZ世代の若者は、素晴らしい理念だけでは不十分です。
その素晴らしい理念に共感し、自社に忠誠心、愛着を持って仕事に没頭することを求める見返りに、どのような恩義で報いてくれるのか?
理念とそれを体現した人が人事システムと結びついていなければ”やりがい搾取”として、「この会社は悪だ」と不信感をもたれることになります。
今の日本の経済不景気に対する批判動画が一般庶民にとっての娯楽化している
今の若者たちは、YouTubeやTikTok、X(旧Twitter)などのSNSを通じて、日常的に「ブラック企業の実態」や「やりがい搾取の手口」に関するリアルな告発に触れています。
SNSが怖いのは、検索しなくても勝手におすすめとして以下の情報が流れてくるところにあります。
| SNS・労働市場の定量データ | 数値・指標の傾向 | 若手社員の「防衛センサー」の裏付け |
| SNS上のブラック企業告発・労働問題系ハッシュタグの総インプレッション | 主要な告発系ポストや動画あたり数百万〜数千万回規模の閲覧数・拡散を日常的に記録 | 「会社の綺麗ごとの裏には搾取がある」という情報が、若年層のスマホ内で毎日のようにインプットされている |
| 若年層(20代)の「仕事における最優先リスク」意識 | 7割以上が「成長よりも、精神的・肉体的な健康を損なわないこと(ホワイトな環境)」を重視 | 理念の実現や自己犠牲よりも、会社に人生を壊されないための「防御力」を圧倒的に優先する |
| 「やりがい」に関する意識調査 | 「やりがいを強調する会社ほど、労働条件がブラックな傾向にある」と回答・実感する割合が**約65%**に達する | 経営者が語る「理念・やりがい」という言葉そのものが、彼らにとっては最大級の「危険信号(トラップ)」として認知されている |
これまでは会社や職場、上司に対する不満が限界に来て、転職相談や書籍などで調べるという能動的な行動をしなければ、会社にとって不都合な事実を知る機会はありませんでした。つまり大半の従業員は、上記の表のような情報に触れる機会すらありませんでした。だからそもそも「退職やいつまで続けようか」なんかを発想するきっかけもなかったわけです。
しかし今では上記の仕事や給料に対する不満や愚痴などの”あるあるネタ”、転職た退職などで会社に対して人泡吹かせた”スカっとネタ”、というのはSNSで人気のお題の1つになっています。そしてSNSは人気動画が検索しなくても勝手にピックアップされるので、そうしたこれまでなら会社や職場、上司に対して不満を感じていなかった人まで「ちょっと待てよ・・・」と考えるきっかけにつながってしまうということになります。
そしてAIの登場により、今後、新卒市場は理系人材や工業高校卒のブルーカラー人材が優遇されたり、転職市場も活発化するなど、勝ち組・負け組みがはっきりする時代となります。つまり、自分の経済状況に不満を持つ人が増え、そうした会社や国という大きな力に対する愚痴や成敗するネタというのはより人気になっていくことでしょう。
だからそうしたネットの影響を受けた若者に理念を語ると「出た、理念だ。こうやって耳当たりの良いお題目でこちらの善意を揺さぶり、低賃金や過重労働を正当化するつもりだな」とネットの情報をそのまま鵜呑みにして、本来であれば素晴らしい理念も捻じ曲げて捉えられてしまいます。
だからこそ「理念を語る」というアクションを起こした先に、それを体現してくれた人を自社がどれほど大切にし、理念に共感してくれた仲間に対してどれほど手厚いサポートをして、多くの人に感謝され、60歳という最終ゴールに向けて、どんな人生を描いていって欲しいのか?
「わが社という船にのって、どのような航海をし、その先にどんな新世界へたどり着くことを一緒に目指すのか?そしてその新世界にたどり着いた見返りとして、どのような報酬が待っているのか?」までが1セットです。
「一緒に行こう」とZ世代の若者を誘ったとき「ご一緒させてください」といわせるための方法をこれからご紹介していきます。
2. 理念というわが社の目標を「わたしの目標」に変える方法
会社に入社して間もない若手社員は「会社が目指す理想の姿」と「自分がしたいこと」のギャップが一番大きい存在です。
新入社員のタイプには大きく2つのタイプに分ける事ができます。
若手社員の2つのタイプ
- 自分のやりたい事、なりたい将来像がはっきりしているタイプ
- 自分のやりたい事、なりたい将来像がまだ定まっていないタイプ
前者の「キャリア志向の若手」の理念への共感のさせ方から解説します。
【タイプ1】10年後の理想像がはっきりしているタイプの理念への共感のさせ方
大学で専門的な分野を学んできた新卒や特定の技能に特化した専門学卒、前職で一定以上の成果を残してきた中途社員は、10年後の自分の理想のキャリア像が具体的にイメージできている事が多く、そのために「自分がどのような成長をしたいのか」というゴールまでのミッションが見えている場合が多いです。
見出しテキスト
- 【専門知識の習得】
自分はこれからどんな分野のプロフェッショナルになり、そのために深めていく専門知識は何か? - 【成果を出すために必要なノウハウ】
その専門分野において、成果を生み出すためのコアスキルとは何か?どのようなノウハウを習得すべきなのか? - 【上記を習得するために必要な経験】
上記を達成するために、どのような経験をする必要があるのか?そしてそのチャンスは今の会社で経験できそうか? - 【自分の長所を引き出し、活用してくれる上司】
自分の適正や働く目的を理解し、自分という人間の特性を理解した上で、指示や指導をしてくれそうな先輩や上司はいるか? - 【自分にはない魅力や武器を持った仲間】
自分の性格とは真逆の存在や違った価値感や武器を持っている、自分に新たな気付きや刺激を与えてくれる仲間がいるか? - 【ネガティブな感情を受け止めてくれる先輩】
会社や上司、仕事のやり方や方針に対して不安な気持ちを持ったとき、それを受け止めてくれる存在がいるか?
「理念に共感する」ということの本質は「ある程度の長期間、このチームで頑張り続けられそうか?」を感じられるかどうかにあります。
「人の評価は第一印象で8割決まる。」という言葉があるように、新入社員にとっての会社にも同じ事が言えます。
上司の印象、先輩の印象、入社暦が近い仲間の印象。
それらを見て「仲良くなれそうだな」だとか「仕事に対して質問できそう」、「活気があって負けてられないな」など、「自分の目指すべき道で参考にできるロールモデルとなる先輩社員の存在」や「学びが多そうな場所だな」というものを察知すれば、「この職場で長く働きたい」という気持ちになり、「すぐにこのチームに馴染みたい、チームの一員として認められたい」という気持ちが、「チームの一員の証である理念やビジョンに対して理解しよう。」というアクションに強く動機付けします。
逆に「この職場で長く続けられそうにない」という印象を抱けば、「このチームとは距離を置こう」というアクションにつながり、チームの共通の柱である理念というものに対して、強い拒否感を感じるようになります。
自社の社員に対しても顧客と同じように営業であると思う事が大切
多くの会社で、マーケティングやセールスの手を抜く人は少ないと思います。
しかし、内部の人間に対して行うマネジメントであればどうでしょうか?
「部下(後輩)なんだから、社員なんだから、言う事を聞けよ。」という気持ちがどこかにありませんか?
外部の人間に対して行うセールスと、内部の人間に対して行うマネジメント。違いはそこだけです。
「会社にとって、理想とする行動を導きたい。」
マネジメントでの勝利とは、部下に媚びられることではありません。自分が部下にして欲しい行動を取らせた時が本当の勝利です。
では理念の話に戻しましょう。
凄く優秀で、やる気のある、学歴も高い。しかし、少しプライドが高そうで扱いづらそうだなと思う新入社員が入ったとしましょう。そうした人材は実はちょろいです。
上記のように、褒めているようでその裏で課題を突きつけるようにします。
そうすれば「この人、凄い」という印象を与え、「もっとこの人の話を聞いてみたい。この人についていけば、もっと成長できる!」という欲求を引き出します。
これが理念浸透におけるファーストフェーズです。
理念に共感できるかは誰が語ったかで決まる
「Z世代の若者は理念に共感してくれない」
これは大きな間違いです。
極論ですが、仮にむちゃくちゃ暴論な体育会系な理念やビジョンであったとしても、創業者やカリスマ経営者がその理念を語れば、多くの人を共感させることができます。
なぜなら、上記のような相手が求めているニーズに合わせて理念を翻訳できるからです。
「こういう人になりたいっていってたよね。それはこういう意識で働いていれば、こういう風な行動をするようになり、それが習慣となって身につくんだよ。」
上記のように、理念と指示内容を上手くリンクさせることによって、「なるほど!」という本当の意味でのコンセンサスを得る方向に仕向ける事ができるからです。
理念に共感できないのは、実務とつなぎあわせることが出来ていないだけの話です。
理念やビジョン、社訓やクレドというのは、「わが社の理想の社員の共通点はこうだ」という抽象的なものになりがちで、それを実際の現場に落とし込もうとすると、職場における日々の日常業務の指示や指導、報告や相談を受けたときに業務とリンクさせて行っていく必要があります。
つまり、職場の社員を理念に共感させられないというのは、経営陣だけが理念を理解していて、現場のリーダーとなる管理職が理念を暗記するだけになっていて、実際の実務と照らし合わせて説明することの出来ない理解の浅さが問題であるということが出来ます。
理念の浸透においてほとんどの会社は「現場で若手に翻訳する『変革型ミドル(中間管理職)』の育成や教育」に力を注いでいません。
自社の理念やクレド、社訓を日常の報連相や会議、指示や指導の際に、どれほど会話の中に入れ込む事ができるか?
そして「若手たちの自分はこうなりたいという未来の姿」と「会社が求める理想の姿」とどれほどリンクさせた会話が出来るか?
このスキルこそが本来、管理研修で教えるべきものであるといえます。
【タイプ2】将来がイメージできていないタイプへの理念の共感のさせ方
新卒に多い2つ目のタイプは「自分のやりたいことや、将来の理想像が全く定まっていないタイプ」です。
このタイプは、大手志向であった場合が多く、世間一般の大多数の意見に賛同したり、知人や家族の影響を大きく受ける受動的であることが多いです。
日本人の一般的な人生のキャリア設計
「やりたいことがない」・「10年後どうなっていたいか?のビジョンがない」
上記のことは日本人として、極めて当たり前の感想です。なぜなら偏差値至上教育を受け、親や塾の先生の言う通りに学部を選んできた「他人が敷いたレールの上をミスなく走ることが評価される生き方」しかしてこなかったからです。
大学の研究室によっては、主体的に研究テーマを決めるという教育機会がある子もいるが、残念ながら大半の大学までの教育では「自分の興味や関心、疑問よりも、大人が求める理想の良い子を演じる」という価値感が根幹にあります。
しかし、そういった主体的に決める教育を受けてこなかった子達は逆にチャンスでもあります。
なぜなら「一般的にこう生きる事ができたら勝ち組だよね」という、いわば外付けの動機でしか動いていないからです。
- 偏差値の高い高校に行き、難関大学に合格し、大手の内定を得るのが勝ち組という「社会の通念」
- 給料が良くて、有給などの福利厚生が充実している会社がホワイト企業という「一般常識」
- 最近は転職が活発で、キャリアアップしていくための「転職市場における汎用性」
上記のようなSNSで発信されている情報に大きく影響を受けているというわけです。
こうした集団志向を持つ若手に対して効果的なアプローチは、「うちの会社で当たり前にやっているこの行動は、世間の一般企業に出た時に『○○するための普遍的なビジネススキル』なんだよ」といった汎用性、当社のこの理念は、取引先や世間から○○の点で信頼される社会人として当たり前の考え方なんだ、といった日本社会全体での共通認識を自社理念とリンクさせることで「自社の理念は日本社会の当たり前の常識を土台に作られたもの」という正統性を確保する事がで来ます。
つまり自社の理念とは、押し付けるものではなく、共感・賛同させていくものであり、政治のやり方に近いものであるという理解をしておきましょう。
自社の理念と社会的な一般常識をリンクさせるには?
令和の若手にとって、会社とは「自分の人生を預ける場所」ではなく、「社会人としての価値を高めてくれる訓練所」でなければいけません。
そのためには、経営者や上司が語るべき理念は、エゴの押し付けであってはならず、 「この会社の理念や行動規範に従って日々の業務をこなすことこそが、これからのAI化する社会を生き抜くためのスキルを身に付けられる近道である」と論理的に納得させることが大切になります。
AIの登場によって、文系の大卒ホワイトカラーの枠の激減や中途採用の比重の増大など、新卒や中途転職を考えている人たちにとって、「自分の価値を高めてくれる場所」の魅力はますます増大していきます。それは「自分の将来像がまだぼんやりとしていて、AIが台頭するこれからの時代、自分は何を武器に生きていけばいいのか分からない」と漠然とした不安を抱えている若手なら尚更です。
具体的には以下の手順に従って、自社理念の翻訳をできるようにしていきましょう。
┌─────────────────────────────────────────────────────────┐
│ 【 時代背景:AI台頭による労働市場の激変 】 │
│ 「単なる作業や指示待ちはAIに代替されるシビアな未来」 │
└────────────────────────────┬────────────────────────────┘
│
│ 不安・危機感
▼
┌─────────────────────────────────────────────────────────┐
│ 【 経営者が提示する「育成ロードマップ」 】 │
│ 「うちの会社では、仕事を通じてこういう『生身の突破力・ │
│ 課題解決力』を持つ人材を育成するシステムがある」 │
└────────────────────────────┬────────────────────────────┘
│
│ 💡 【 ウィン・ウィンのアラインメント 】
│ 「会社の理念を体現して事業を伸ばしていくこと
│ = AI時代に勝ち抜く自分の市場価値を高めること」
▼
┌─────────────────────────────────────────────────────────┐
│ 【 最強の当事者化(自走) 】 │
│ │
│ 「会社に搾取される不安」 ──×──> 「会社を盾にして実力をつける」│
└─────────────────────────────────────────────────────────┘
- AI時代の現実を直視させる
「AIや自動化が進むこれからの労働市場では、ただ言われた作業をこなすだけのスキルは価値を失う。これからは、予測不可能な課題を解決し、生身で価値を生み出せる人間だけが生き残る」という未来の現実を共通認識にする。 - 会社の育成ロードを「盾」として提示する
「だからこそ、うちの会社では日々の仕事を通じて、こういうアビリティや経験が積める仕組み(育成ロード)を用意している。この会社で理念を体現し、事業の壁を突破していくプロセスそのものが、君のキャリアの最強の防壁になる」と伝える。 - 利害の完全合致を約束する
「君が会社の理念を体現して業績を上げてくれれば、会社としても非常に嬉しい。そして同時に、その過程で得たスキルや実績はすべて君自身のものとなり、AI時代に負けない価値として手元に残る」
不安を抱える若手にとって、「AI時代を生き抜くための具体的な育成ロードと、それが自分の得になるという証明」は最強の安心材料であり、自社理念への信仰心に変わります。
3. Z世代の若手をロイヤル社員に変える「自社理念の翻訳」:実践3ステップ
ここまでで高額なコンサル費を払い、経営陣がどれほど見事な自社理念、クレド、社訓を作り上げたとしても、それを翻訳し、社員1人1人が「私が目指すべき目標」として落とし込む事ができなければ、「うさんくさい綺麗ごと」で終わってしまう。
ここからは「理念をどのようにして、社員に演出していくか?」の実践方法についてお伝えします。
ステップ1:変革型ミドル「理念の伝道者となる中間管理職を育成しよう」
自社の理念を真の意味で浸透させていくためのキーマンは「現場の責任者(中間管理職)」です。
経営学で有名な神戸大学の教授:金井 壽宏の著書に『変革型ミドルの探求:戦略・革新指向の管理者行動』というものがあるが、この著書では以下の事が丁寧に解説されています。
著書紹介
「変革型ミドル」とは、企業組織の中間管理職(ミドルマネジャー)に関する経営組織論・リーダーシップ論の概念であり、「上からの指示を下に伝えるパイプ役」や「日々の業務を回す管理者」ではなく、組織の変革やイノベーションを現場で主導・実現する中核的存在を指します。
- 経営と現場を「接続・翻訳」する仲介者(チェンジ・インターメディアリー)
経営層が掲げる抽象的なビジョンや戦略と、日々目の前の業務に追われる現場の現実の間には、言葉の意味、時間軸、利害のギャップが存在し、変革型ミドルは、経営の意図を単に横流しするのではなく、現場が腹落ちする言葉や行動基準に「翻訳」し、実行に移す役割を担います。 - 「指示待ち」ではなく「自主的参画」
旧来の管理職像が「上から言われたルールを遵守させ、維持・管理すること」だとするならば、変革型ミドルは経営目標の共有だけに留まらず、自ら変革の必要性やアイデアを立案・主導し、周囲を巻き込んでいくエネルギーを持っています。 - 変革と現場のバランスを取る(二重の役割)
変革を推し進めようとするあまり、現場の従業員の感情や負担を無視しては組織が崩壊します。変革型ミドルは、新しい挑戦へのコミットメントを持ちながらも、変化に対する現場の不安や反発に配慮し、組織を壊さずに前進させるという高度な調整力(感情管理と実務のバランス)を発揮します。
組織が硬直し、トップの言葉が現場に届かなくなる最大の理由は、この「中間層の翻訳機能」が機能していない点にあり、経営の意志を現場の血肉に変える、まさに組織の心臓部といえる存在です。
金井研究室は、私が神戸大学大学院時代の隣の研究室で、ゼミ生とよく議論交換していました。このブログで発信している「リーダーシップ」や「モチベーション」、「組織行動論」の考え方において、大きな刺激を受けました。是非、多くのビジネスマンに読んでもらいたい一冊です。
自社理念と翻訳者となる中間管理職が出来ないといけない役割
自社理念を現場に浸透する”変革型ミドル”になるために必要な能力は以下の4つです。
- 根拠としての理念(ロジカル・クレド・インジェクション)
自社理念が精神論ではなく、経営学に則った根拠のあるものとして評価されるためには、業務の指示や指導をする際の「なぜ?」の部分に”会社のクレドや理念の条文”を引用し、自社の理念や社訓・クレドは自社で積み上げてきたノウハウを言語化した暗黙知の結晶であると知覚させる力が必要です。 - 日常会話に理念のフレーズを引用する(無意識的唱和)
自社理念を形式的なものでなく、自社社員たちに実際に実践させるためには、日常的なシーン:「雑談時のネタキーワードとして」や「チーム内で話を締めくくる合言葉として」など、理念フレーズを使うこと自体を楽しむ、遊ぶなど、強制力ではなく、自発的にその言葉を使いたくなるような誘導する力が必要です。 - 自社固有から汎用的な話への転換(概念化)
自社理念に従う事が自分にとってもメリットであると思わせるためには、「こういう考えを持つことで、こういう視点を持った人になれるよね、こういうスキルが身に付くよね」というように「自社に限定した話ではなく、汎用性の高い話である」という概念化スキルが必要です。 - 変化する市場と理念のマッチング
これから働く上でこの考えに賛同すべきだという信頼をおいてもらうには、「今はこういうことが求められる時代になった。その時代で生き残るためにはこういうことをしなければいけない」といった今の時代で求められることと絡めて話すことで、「今の時代にあった考え方」であるという先進性を演出する力が必要です。
管理職で上記のことをできる人は非常に少ないです。
それは単純な理由で、上記の事を管理職に求めてこなかったからです。
自社理念やビジョン、社訓、クレドは作成してからが本番です。管理職たちが集まる会議の場で、フレーズを多用して合言葉のように遊び心を持って使い、短期目標や経営方針を確認する場で根拠部分に理念を引用し、「それが体現できる人とはどのようなスキルを持つ人か?」という理想の社員像を共有し、他社との差別化、競争優位性を考えていく上で、理念と重複させながら確認する。
上記の会議をしていけば、管理職たちは理念を本当の意味で理解できるようになり、部下や後輩たちへの指示、指導をする際に自然にできるようになっていきます。
自社理念の浸透という伝言ゲームにおいて、ストップしているのは現場ではありません。経営陣と中間管理職の間で止まっているのです。
ステップ2:理念と人事評価をリンクさせる——「理念に従う奴が一番得をする構造への転換」
中間管理職が自社理念について深く理解し、現場での実務の中に落とし込むことができるようになれば、「理念に従いたくなる構造を作り上げること」に取り組みましょう。
なぜなら、社員たちは会社にお金を稼ぎに来ているからです。
理念が自社の社員たちに響かないのは「それを仮に体現したとしても給与に反映されないことが多いと感じているから」です。
「結局は業績評価で全てが決まる。なら、業績を出せるなら自分のやり方のほうが早い。」
この構図を崩せない限り、自社理念の浸透を実現することは出来ません。
業績評価 VS 態度評価
しかしながら”業績評価と態度評価によるハイブリッド人事考課制度”とは口で言うほど簡単なものではありません。
なぜなら、完全には「自社の理念を体現する行動をとっている社員=目覚しい業績評価を残している」とは限らないからです。
多くの会社では業績評価とは別に、態度評価という観点で「社員のチームへの貢献度」「会社に対する忠誠心」といったものを評価に取り入れられていることかと思いますが、これには決定的な問題があります。
それは「上司や先輩の指示や指導に従っても、成果が上がらなければ評価はされない。上手く話を聞いているように見せて要領よく自分のやり方で仕事をして、成果を出している奴が毛lt曲昇進するのも早いし、ボーナスも高い。なら理念に賛同しているフリをする事が一番賢い雇われのあり方だ。」となってしまうことです。
これが「理念よりも業績だ」「現場の事を何一つわかっていない」と管理職すら理念を信じきれない理由です。
正しいKGI・KPI・KSFの設定方法
上記の問題を解決するには、売上予算の達成を初めとした業績指標と理念をリンクさせていく必要があります。
まず業績評価の軸、利益創出における最終目標である”KGI(重要目標達成指標)”は売上予算などの財務数値になります。
これら各部門ごとの予算数値は通常の会社であれば設定されていることだろうと思います。
その予算を達成するために、現場でどのような行動を重視していくかの”KPI(重要業績評価指標)”は、営業の会社であれば、年間平均接触回数であるとか、折衝の平均時間などの「新規顧客の獲得を目指すのか」、「顧客1人当りの年間平均単価を上げにかかるのか」あるいは「口コミなどによる顧客紹介を増やすのか」といった自社の現在の経営課題にあわせたアプローチ目標を設定するのが通常です。
そして上記に目標を達成するためには、自社の理想の社員の行動”KSF:主要成功要因"の部分に理念を入れ込むようにしましょう。
先ほどの営業の例の続きであれば、なぜ営業マンAさんは「顧客に新しい顧客を紹介が多いのか?」「1人の顧客の年間購買回数が多いのか?」「平均単価が上がるのか?」といった自社が今後増やしたいと思う理想の人材を思い描き、その行動の源泉となる仕事の考え方を自社理念とリンクさせましょう。
「売上予算を達成し続ける人は、○○のKPI指標を高い水準で満たしている事が多い。そしてそのKPIを達成できる人間になるには、○○の意識を持って、□□の創意工夫をしている事が多く、それは☆☆の考え方が根幹にあるからだ。そしてそれは■■という自社理念を体現している社員に他ならない」
上記のような戦略目標と自社理念がつながっていれば、社員全員が自社理念を体現できるように努力するようになります。
経営戦略を達成するための人的資源管理のツールとしての理念経営
ここまでで「理念とは一体どのようなものであるのか?」がなんとなく見えてこられたのではないでしょうか?
業績評価を向上させるためには、理想の社員を増やしていくことが必要です。そしてその理想の社員を増やしていくためには教育が必要です。その教育の根幹が理念なのです。
これが理念やビジョン、社訓、クレドは精神論でなく、経営科学の1つのツールであると断言できる理由です。
そして理念を理想の社員を育成する仕組みとして活用するためには以下の手順で作りこむ必要があります。
人事考課に理念を入れ込む手順
- KGI・KPIをまずは設定する。
- 上記の財務指標を達成するために必要な知識・経験・スキルを定義する。
- 上記の知識・経験・スキルを身に付けるためには、どのような意識を持って働く事が重要かを考える。
- 上記の意識を持っていれば、他の社員とどのような行動・発言の面で違いが出るかを考える。
- 今は結果が出ていなくても、そのような意識、行動を続けていれば成果が伴うかを確認する。
- リストアップした理想の考え方・行動・態度・言動を人事考課の軸として設定する。
スポーツや受験において、「この子は成績が伸びるだろうなぁ」・「すぐに上達するだろうなぁ」というのはすぐにわかります。
なぜなら他の人よりも高い意識で練習が出来ているからです。だから経験が浅くてもすぐに伸びていきます。
仕事でもそれは同じです。
○○の意識を持って、□□の質問を自らして、☆☆の疑問がわけばすぐに相談しに来て、あーでもない、こーでもないと試行錯誤しながら仕事を楽しめる。成果が出たら嬉しそうに「やりましたよ!」と褒めてもらいたそうにするので、★★の面でよくやったな。この部分は特に素晴らしい。これからもそこを武器に頑張ってくれ、と長所を伸ばせる。
上記のような社員が増えれば、業績なんか簡単に伸びると思いませんか?
そしてそれは「主体性がある」なんて抽象的な人事考課シートでは体現できるものではないと思いませんか?
人事考課の評価項目が具体的で、最高点を取るために努力すれば、理想の社員になるための能力・経験・知識が身に付くようになっている。
「理念に従う事がこの会社で最高評価を受けるための一番の近道である」
社員から上記のように思わせるためには、人事考課の中に理念が入り込んでいる構造にしなければいけません。
ステップ3:Z世代の若手社員が勝手に染まる組織文化を作り上げよう
ここまでで”理念を体現すれば見返りを得られるハード(人事考課)”と”理念を翻訳し現場で実践させるソフト(変革型ミドルの育成)”ができました。
最後は”「社員が社員へと理念を伝えていく社風」をデザインする”ことに挑戦しましょう。
松下幸之助に学ぶ神話の作成方法
職場で変革型ミドルが理念の翻訳をしっかりとしていれば、現場で「自社理念の正統性・信頼性・論理性」が正しく理解されているはずです。
そうした段階になれば、初めて「社員総会などでの演説」が効果を発揮するようになります。
それが経営学の教科書でよく引用される松下幸之助やジョブスなどが得意としたストーリーテリング【社内成功ストーリーの神話化】です。
松下幸之助の「水道哲学」
「産業人の使命は貧乏の克服である。その為には、物資の生産に次ぐ生産を以って、富を増大しなければならない。水道の水は価有る物であるが、乞食が公園の水道水を飲んでも誰にも咎(とが)められない。それは量が多く、価格が余りにも安いからである。産業人の使命も、水道の水の如く、物資を無尽蔵たらしめ、無代に等しい価格で提供する事にある。それによって、人生に幸福を齎し、この世に極楽楽土を建設する事が出来るのである。」
松下幸之助が説いたのは「会社が儲けること(利益追求)」と「社会に価値をばら撒くこと(使命)」は矛盾しないということを説きました。
低価格で売るという方針は今の時代に合うものではありませんが、何もなかった当時の日本において、水道の水のように、価値あるものを誰もが当たり前に享受できるレベルまで供給し尽くすことこそが企業の本来の使命である。 ――つまり、自社の理念(クレド)とは、日々の数字稼ぎのための綺麗ごとではなく、「我が社が社会にどんな水道水を流すのか」という事業の根幹の定義にほかならないというわけです。
経営の神様と称される松下幸之助が実践したように、本物の理念とは、「なぜこの会社が存在し、過去にどんな修羅場を乗り越えてきたのか」という歴史のダイナミズムと、目の前の若者が描く「自分の人生をどう勝ち抜くか」という個人の生存戦略を、一つの大河のように美しく紡ぎ合わせるストーリーテリングによってはじめて完成します。
┌─────────────────────────────────────────────────────────┐
│ 【 企業の「歴史・原点」の物語 】 │
│ 「この会社がどんな修羅場を越え、何を成し遂げてきたか」│
└────────────────────────────┬────────────────────────────┘
│
│ +(融合)
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┌─────────────────────────────────────────────────────────┐
│ 【 若手の「個人の生存戦略」の物語 】 │
│ 「自分がこれからどんなキャリアを切り拓いていくか」 │
└────────────────────────────┬────────────────────────────┘
│
│ 💡 経営者の翻訳による大河化
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┌─────────────────────────────────────────────────────────┐
│ 【 圧倒的な求心力(ストーリー) 】 │
│ │
│ 「会社の歴史と自分の未来が完全に一本の軸で繋がっている」 │
└─────────────────────────────────────────────────────────┘
そしてこの演説は「会社目線」だけではZ世代の若者には響きません。
「これまでの会社がつむいできた歴史、他社との差別化、そして未来のコンセプト」
上記の会社運営における論理性の上に「これからの君たちが激動する社会で生き残るための提案」をしなければいけません。
そしてその提案の中に、給与アップや福利厚生を更に変えていくという野望まで含まれたら完璧です。
あくまで優先度は「綺麗ごとではなく自社が生き残る上で戦略として妥当か?」がまず第一に来て、「その上で自分がこの会社で頑張れば自らの価値を高めるためにつながりそうか?」という努力する価値が2番目に来ます。そして最後に「この会社で頑張れば給料が上がり、生活は楽になりそうか?」という現実が最後にくるのです。
先輩が後輩に自社理念を伝道していく組織の作り方
理念を軸とした自社の長期戦略と人材マネジメントの融合、そして努力した先の「報酬」の3つがリンクしていれば、自社理念や社訓、クレドは「誰もが素直に目指すべきだと思えるもの」に昇華されます。
後は以下の手順に従って、自社理念を体現できる社員を増やしていくだけになります。
ロールモデル(理想の社員)を仕立て上げる
まずは自社の理念を体現する部下や後輩を見つけ”社内の有名人(ロールモデル)”として祭り上げます。
それは職場の朝礼や懇親会で指名をして、大げさにみんなの前で褒めてもいいですし、社員総会で表彰をする、社内報でピックアップするなども効果的です。コストを賭けられない場合は、指示や指導の際に「お手本として○○を参考にしろ」と名前を引用するだけでも効果があります。
そうした演出をすることで「あの人は凄い」「私もあの人みたいになりたい」という憧れの存在、目指すべき人という理念という抽象世界の枠から降臨した現実の人をつくることで、理念や社訓というものがより身近に、リアルに感じられるようになります。
ロールモデルを作ることは指導する側にとってもメリットがあります。
- あいつは、他の社員と違って、○○という考え方をしている。
- あいつは、他の社員と違って、○○という行動を多く取っている。
- あいつは、他の社員と違って、○○というようなことを発言する事が多い。
上記のように他の社員にも真似てほしい行動をロールモデルを褒めることによって誘導がしやすくなります。
誰もがしていない行動にはリアリティを伴わないことが多いので、社内の現実に起きている事を引用すると指導や指示がしやすくなります。
社内で圧倒的大多数を取れるように動く
自社理念を伝達していく人たちには実は順番があります。
私の場合だと「職場で影響力大きい人」から順番に攻略するようにしています。
なぜなら、組織:人が集まる集団というのは、大多数の考え方が支配的である事が多く、今のやり方を変えようとする新しいものに対して排除しようとする”組織慣性”が働くからです。特にそれは田舎のコミュニティや歴史の長い会社、高度な官僚制である公務員などに顕著です。
どれほど優れたアイデアも「これまでも、これから先もずっと、このままでいたい」と願う保守的な人の妨害に必ず会います。
そこで大事なのは、社内で自分の意見を圧倒的大多数にしていくことです。
上記において、全社員に平等に一律に話をしていくというのは実は悪手です。全員均等にマネジメントをしていくとその途中経過で先輩や同僚からの余計な入れ知恵が入り、上手く自分の考え方が伝わりません。なので、まず職場で口コミ力のある社員に絞って集中的に話をします。そしてその次に能力があって色んな人に仕事を頼られる人をターゲットにします。
最初は自分の意見が少数派であっても、職場の中でキーマンとなる人物を抑えておけば「あの人もそういうならまぁ」といったように、周りの意見に流れされない人物を味方に納めていき、その人たちを使って、大多数の意見よりもその人を好む周りの人物を攻略します。最後に職場の過半数を味方につけてから、大多数の意見に流される人たちを攻略します。
これらは全て役職は関係ありません。
会社の中で声の大きい人、人間的に魅力がある人、仕事で頼られる事が多い人、を狙っていきます。
新商品を出す時にはまず新しいもの好きなアーリーアダプターを狙いますよね?そして口コミが出来たらインフルエンサーに拡散させますよね?
組織の変革、文化の醸成、理念浸透も同じ手順です。
職場で半数以上の意見を変える事が出来れば後は勝手に浸透する理念が出来上がる
職場で自社理念を過半数以上の社員に響かせることが出来れば、後は勝手に組織慣性が仕事をしてくれます。
- 職場で有能な先輩たちや仕事が出来る上司は、理念にあるフレーズを良く使っている。
- 自分たちもその仲間に入れてもらいたいから、私もフレーズを会話の中に入れよう。
- 先輩に仕事を教えてもらうときに、理念を交えてくれるから「なるほど」と思うことが多い。
- 色々と話を聞いていると「仕事のベースとして理念が根幹にある」と気付いた。
- ウチの会社の理念やビジョン、社訓、クレドというのは実は凄く考え抜かれたものだと思う。
- この会社どうとか関係なく、社会人としてウチの理念を体現できる社員になりたいものだ。
理念を日常の中に溶け込ませているので、先輩社員が後輩に仕事を教えるとき、失敗した理由を振り返るとき、こうしてくれという指示をする時に理念が学べる。雑談や懇親会のときにネタで笑いながらフレーズを言うので純粋に面白い。
こうした感情が芽生えると社員たちは自発的に勝手に理念が無意識に入ってきます。
理念とは押し付けるものでなく、知らない内に勝手に自分の中に入ってくるものでなければなりません。
まとめ
「最近の若者は指示待ちだ」「理念が伝わらない」「すぐ辞める」
令和に入り、人材獲得・人材育成はより難しくなってきています。その原因をまとめると以下の3つです。
- 翻訳機能の完全停止(中間管理職の機能不全):
経営陣が作った抽象的な理念を、具体的な行動や言葉に翻訳できる「変革型ミドル」が組織に存在せず、伝言ゲームが機能していない。 - 「理念に従っても得をしない」という人事考課とのミスマッチ
人事考課は目先の数字だけの業績評価に偏っている。あるいは要領よく従っているフリをする奴が得をするという構造になってしまっている。 - 個人主義の横行による組織の硬直化
「どうせ変わらない」などの保守的な大多数の意見をそのまま放置し、新しい挑戦や理念の浸透が「排除」される。
上記の問題を解決するには以下の3つの構造改革が必要になります。
- 第一に、中間管理職を「変革型ミドル」へ叩き直すこと(ソフトの改革)
経営の意図を現場での日常業務に落とし込み、指示や指導の根拠部分に使用できる「翻訳者」となる中間管理職を増やす。 - 第二に、人事考課と理念をリンクさせ、「理念の体現=個人の最大利益」に直結させること(ハードの改革)
KGI・KPI・KSFのロジックの根底に理念を貫通させ、「この会社の理念通りに動き、市場価値の高いプロフェッショナルになった奴が、一番評価されて稼げて、将来のキャリアも手に入る」という構造を作り上げる。 - 第三に、職場のキーマンを狙い撃ちし、「勝手に理念が染み出す空気」をデザインすること(文化の改革)
社内のインフルエンサーや影響力のある人物から順に攻略し、組織の多数派を味方に付ける。先輩が笑いながら理念を語り、後輩がそれを当たり前の日常として吸収していく職場文化・社風を作り上げる。
理念の浸透というのは、いわば社内政治です。
昭和までは「自社で働かせてもらっているんだから、自社方針や理念に忠実になるのは当然。」と思われていたかもしれません。
しかし平成、令和と時代は変わりました。
会社の言う事が納得できなければ、したがっているフリをして次の転職先を探しながら働けばいいや。
こうした人たちを自分の味方に変える。本当の意味での仲間に変える。
そのためのツールが本当の意味での自社理念を作り上げる、浸透させるに他なりません。